落陽に

魚野紗芽

落陽に


 夕陽がこんなに綺麗なのかと身を以て知ったのは本当に最近のことだ。なんとなく知識として夕陽は綺麗なものと知っていて、それを知っているから夕陽を見て「綺麗だな」という言葉を当て嵌めていただけだったのだと、本当の美しさを知ってから気付くことが出来た。

 別に、わざわざ絶景を見に行って心が変わったとか、そういうことじゃない。熱心に夕陽を見つめる人の瞳が綺麗に輝いていたからだ。黒くてツヤツヤとした瞳に朱い陽が反射しているのに、何故だか透明感があって、歓喜に満ちていた。

 その瞳が見つめる先を辿る。いつもと同じ夕陽のはずなのに、あの瞳に映っていたのと似たような歓喜に鼓動が早くなる。いままで感じたことのない鼓動の速さに胸がはち切れそうで、うまく呼吸ができない。呼吸の仕方を忘れたまま、二人並んで教室の大きな窓から陽が落ちるのを見ていた。

 その日から、夕陽を見ると同じように高鳴る。落ちるな、と無茶な願いをする。一番星を恨めしく思った。あの歓喜の一瞬を永遠にしてしまいたかった。

 私が一人で見ていたとしても、きっとあの子は今日もあの透明な瞳で落ちる陽に恋をしているのだろう。夕陽を見て、同じ美しさに胸を焦がしているはずだ。同じ甘やかな痛みを知るただ一人だと、頑なに私は信じて。

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