第12話 ちっぽけなプライド
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持たざる凡人は勝つことが出来ず―――
ただただ他人の踏み台になり続けたとしても―――
君は柔道が楽しいか?
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柔祭り最後の相手。
それは昨日の昇格戦で、
名は
青桐達の足を引っ張る言動を続けていた彼が、今再び青桐の目の前に立ち塞がった。
場内に入り目前の敵をを睨みつける青桐。
対する不死原は、昨日までと違って、精悍な面構えのまま青桐を眺めている。
「……また足を引っ張りに来たのかよ、
「んだよ、そんなに睨むなよ。
「何考えてんだか知らねぇが、テメェが5人目だからよ……全力でぶん投げさせてもらうぜ……!!」
柔祭りの最後の試合が始まる。
審判の声を聞くや否や、一気に距離を詰める2人。
互いに道着を掴むと、自分の体へと引き付けるように握りしめた道着を手繰り寄せていく。
(瞬殺してやんよ。この前の
「……あ"ぁ"!? んだよ、この……馬鹿力はぁ"!?」
敵を引き付けるため、両腕に力を込めている青桐。
だが敵の体は、巨大な岩石のようにビクとも動かない。
そればかりか、青桐の体が不死原の元へと引き寄せられていく。
(この
「テメェ……
「……」
無言の返答で大方の察しがついた青桐。
両腕に力を込めながら深くため息を吐くと、目前の不死原へ吐き捨てるように啖呵を切っていく。
「不正しても勝てねぇってことを
不死原の言動に痺れを切らした青桐。
夜空に雄叫びを響かせながら、腕だけではなく両脚にも力を込め、その場から足を離し、会場を広く使うように引きずっていく彼。
上体をわざと傾け、己の体重を支える力をも利用して、不死原の体勢を崩しにかかる。
だが……
「……あ"ぁ"!?」
(この野郎……腕力だけで俺の動きを止めやがった……!! クソ
「やぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
硬直したように動かなくなった青桐。
彼を力尽くで拘束している不死原は、周囲に白雲を生み出し、そこに紛れ込ませた右足で、青桐の両足を乱暴に真横に刈り取っていく。
青桐が普段使いするNo.14
練度では遠く及ばないながらも、鉄の塊で力任せに薙ぎ払うその技に、青桐の体は宙を舞っていく。
「
背中を畳に叩きつける青桐。
審判からの宣告は、一本には届かなかったものの、技ありが不死原に入っていく。
同時に待ての合図がかかり、試合が中断されていく。
乱れた道着を直しながら、試合開始の場所へと歩いて行く青桐。
今だ警戒を緩める素振りのない敵を相手に、何かを決意したように息を吐くと、彼は自分の体の周囲に青々とした清水を纏っていく。
同時に青桐の乱れていた息がみるみると回復していき、諸々の動きが洗練されていく。
体力継続回復と隙の軽減効果のある水属性の技。
No.80―――
「それは……!!
「あぁ……今は気力を使いまくるから、あんま使いたくねぇんだけどなぁ……
「
青桐のギアが明らかに1段階上がった。
繰り出される足技の無駄が削られ、反撃のチャンスが目に見えて減っている。
連戦続きで肩で息をしていたのもどこへやら。
時間が経過するごとに息が整っていく青桐の姿を見て、不死原には焦りの色が見え始める。
(クソ……!!
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俺も昔は
自分なら柔道でいいとこまで勝ち上がれるんじゃないかって。
スナック菓子買うみてぇに、気軽に考えてたさ。
でも
勝ち進めば勝ち進むほど思い知らされる、才能の有無を。
努力すれば天才にも勝てるようになるっていうけどよぉ……
努力だけじゃダメなんだよ。
それだけじゃどう足掻いても、努力する天才には勝てねぇんだよ。
知ってるか?
壁にぶち当たるたびに、
お前には無理だ、諦めろってな。
それ聞いてるうちに、心はどんどん擦り減った。
いつしか
だから俺は諦めた。
支払いが倍になるランクになってからは、少しでも金回り良くしようと、色々バイトしたさ。
そっちの方が、時間を有意義に使えるからな。
だから
金払いが良かったからな。
でもよ……でもよ……!!
『ブルァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!』
『糞くだらねぇ……!! テメェはそこで、コバンザメみたいに足にすがりついてろ銭ゲバ野郎が……!!』
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(あそこまでボロ負けして、あそこまでボロクソに言われて……それで黙ってられるほど、俺はまだ男としてに
「楽して
「はっ!!
止まることを知らない荒波の連撃を捌き続ける不死原。
先ほどと同じように、力尽くで相手の勢いを殺しにいく彼。
対する青桐も、先ほどと同じ手を食う気はないらしく、出し惜しみすることなく、水属性最強の技を繰り出しに行く。
一度ジョブ程度に右足で、相手の左足を払い取る彼。
続けざまに四方八方から襲い掛かる、身の丈を遥かに超えた大波。
それらに揉まれ成す術なく体勢を……
「
万物を飲み込む自然の驚異に、真っ向から挑みかかった不死原。
虫を払うように右手で荒波を搔き分け、己の進むべき道を切り開いていく彼。
無数にも及ぶ波浪を捌ききると、荒波に紛れていた青桐の道着の襟の部分を、右手で掴み取りにかかる。
「どうだっ!! 俺だってやれば……」
「おい、
やっとのことで防ぎ切った大技を、再び使用して来た青桐。
本来なら各属性最強の技は、その隙の大きさにより、連続して使用することは不可能である。
だが、静謐の構えを使用している間だけは、常識から外れた戦い方が可能となる。
1度目の猛攻を防ぐのに体力の殆どを使用した不死原。
再び襲い掛かって来た大波に、体の自由を奪われもみくちゃにされていく。
荒ぶる水の隙間から姿を現した青桐。
敵の体をその鍛え上げた背中に乗せ、体を左回りに回転させながら荒波を束ね上げ、桜の花びらを豪華絢爛に散らしていく。
No.91―――
「
「あ"ぁ"……!?」
(これだけやってもダメなのかよ……? 結局ダメなのかよ……!!)
宙を舞っていく不死原。
彼は自分が数秒後に負けることを受け入れながらも、殺気をまき散らす青桐のことを、どこか羨ましそうに見つめていた。
(……良いよなぁ。
高々と派手に飛び散る水飛沫と共に、審判から青桐に勝利を告げていく。
歓声に沸く観客達の声を耳にしつつ息を切らしながら、畳に投げつけられた上体を起こし、項垂れた様子の不死原へと詰め寄っていく。
「はぁ……はぁ……これで、
「クソ……クソォ……!!」
「……あー……えっと……おらよ不死原、手」
「あ、あぁ……」
「次
「っ!! ……くぅ」
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柔祭り閉会の言葉を聞くことなく、試合会場を後にした不死原。
燃え尽きた様子の彼だったが、その表情からは憑き物が落ちきったようでもあった。
「結局負けましたよっと……ダメじゃん俺。はぁ~……凡人にはやっぱ無理なんだよ……」
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『次
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「次……かぁ……また昔みてぇに体鍛えなおそっかな? ……時間
『こんばんは、不死原さんですね? ちょっとお聞きしたいことがあるのですがぁ~」
「この声……財前さん? どうしたんだよ」
『この前渡した
「あ、あぁ……」
『何時間前くらいに?』
「え? ……1時間前くらい?」
『おおっ!! そうですかそうですか。それでは小市民さん、ワタクシの
「目が覚めたら? おい、財前さん!? ……うぅ!?」
(視界がぐらついた!? ……眠気が……あぁ!?)
「おい、誰だよお前らっ!? 待て、離せっ!! 誰か、誰かぁぁぁぁぁぁ!!」
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「おほほほほ!!
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