第11話 夜空に集う者
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世界中から集まりし強者―――
異国の人間達との激闘が始まろうとしても―――
君は柔道が楽しいか?
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柔祭り第一試合。
留学生選手の1人である白人の男、オリバー・ウィルソンが先鋒の相手となる。
濃紺の髪を短く整え頭の天辺を尖らせている彼は、鼻歌交じりに指定の位置まで歩くと、大型犬のように人懐っこい表情のまま試合に挑んで来た。
対照的に、引き締まった表情のまま静かに闘争心を燃やす青桐。
審判の合図と同時に、敵との距離を詰めに行く。
「
「こぉ"ぉ"いっ!!」
「いくヨ~!!」
柔祭りの試合時間は
普段の試合時間4分よりもはるかに短い試合時間。
この祭りだけの特別なレギュレーションとなっており、試合に勝つか引き分けることで、青桐は駒を進めることが出来る。
特殊な試合環境な事もあり、守りを捨てて攻めの姿勢を取る2人。
青桐の右手とオリバーの左手が交差するように動き、互いの柔道着の横襟部分を握りしめていく。
(このオリバーって野郎……
交差する互いの利き腕が、互いの技の発動を妨げる。
宙ぶらりんの左手で、敵の右腕の袖の部分を掴みに行く青桐。
そのまま右足を、天に向かって蹴り上げていく。
その動きに合わせて、地中から瀑流が月に向かって吹き上がる。
次に繰り出される技をいち早く予測したオリバー。
膝を曲げて衝撃に備える左足に重心を移動し、敵の攻撃に備える彼。
受け止めると同時にすぐさま反撃に移ろうと企てている。
(これ、No.65
「体ヲ……テェッ!?」
滝落しの動作中、敵の重心が動いたことにいち早く勘づいた青桐。
現在繰り出そうとしている技を中断し、重心が乗った敵の左足を、外側から払いとる小外刈りを放っていく彼。
突っ張り棒が外れたような動きをするオリバーは、体勢を崩し背中から後方へと倒されていく。
「やぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
「一本っ!!」
「グゲェ~……やられちゃったヨ~……」
「HAHAHA!! 相手が
1番手のオリバーと交代するように、試合会場内に入って来たドレッドヘアーの黒人留学生、ガブリエル・シルヴァ。
歯を見せるようにヘラヘラと不敵に笑ってはいるが、その目には油断の欠片も存在しない。
審判の合図と共に、2試合目が始まっていく。
「
「こい……!!」
「OK~
得物を狩るチーターのようにしなやかな筋肉を動かし、両脚に雷を纏うと、目にも止まらぬ速さのまま、会場内を縦横無尽に駆け巡るガブリエル。
その俊敏性で翻弄しにかかるガブリエルは、その場で足を止める青桐の死角に入るや否や、距離を一気に詰め、彼の道着を掴み取りにかかる。
「道着、
「甘ぇぞ
右手を差し出すガブリエル。
その道着の右袖をを組際に素早く左手で握りしめた青桐は、合気道の技のように敵の突進する力を利用して、タイミングよく体を180度左回転させ、一本背負いを繰り出していく。
殆ど力を入れることなく背中に担ぎ上げた青桐は、敵を畳へと豪快に投げ飛ばしてく。
「やぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
「一本っ!!」
「Oh~……こりゃ
「Thank you for your hard work. Leave it to me(
敵チームの3番手、アーロン・アレンゼと名乗る、ボルドー色の髪を後ろで団子状に纏めた、ガタイの良い黒人留学生の入場を見守る青桐。
試合時間が短いとは言っても、3連戦目の彼は、徐々に息が上がってきていた。
道着の襟で首元に流れる汗を拭うと、敵の3番手に目をやっている。
(……次の野郎は
「
審判の掛け声とともに3試合目が始まる。
相手の筋肉質な両椀が道着を掴み取りにかかるのを、腕の軌道をずらしていなすことで凌いでいく青桐。
だが、疲れが見え始めてきている青桐と違い、アーロンは万全の状態。
青桐のさばきに力尽くで挑む彼に押され、場内ギリギリの部分、赤い畳の部分まで追いつめられていく。
技の流れや相手に押し出されて場外に出ることを除いて、赤い畳の外側へと自ら足を踏み出せば、指導を取られることがある。
瀬戸際に立たされている青桐。
観念して敵の柔道着を握りしめると、右足を敵の左足の外側へと踏み出し、両手は左へハンドルを切るように回していく。
同時に己の左足の裏側を、敵の右足首に当て、その部分を支点にして後方へと振り投げる支釣込足を、青桐は繰り出していく。
惜しくも投げ飛ばすことは叶わなかったが、体を入れ替えることで、アーロンを場外間際へと追い込むことに成功していく。
「……!! That's a good way(
「しゃおらぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
場外への圧をかける青桐は、アーロンとの押し合いに入る。
互いに全身の筋肉を酷使して、敵を後方へと押しやる最中、一瞬力を緩めた青桐。
全力で押し合っていたアーロンは、壁が突如消えたことで前のめりに突っ込んでくる。
それに合わせて体を左に回転させながら、左手で敵の右袖を引き、右ひじを敵の右わきに入れ込み投げと飛ばす背負い投げを繰り出していく。
大きな地響きを立てて背を叩きつけたアーロン。
審判の手は夜空に高々と上がっている。
「一本っ!!」
「……OK(
「アーロンさん、
外国人選手達の4人目。
前髪を右側へと流すようにセットし、サイドを狩り上げているシャルトルーズイエローの髪の白人男性、シモン・ノーブル。
紳士的な面持ちで、青桐と試合前に握手を行うと、審判の合図と共に全身から殺気を放ち、青桐に掴みかかってくる。
応戦するように道着を掴む青桐。
その瞬間、彼の脳裏は黒いモヤがかかっていく。
(この野郎……さっきまでの3人とは
青桐の周囲に白雲が漂い始める。
闇夜に漂う白き物体から放たれる、刃の如き右足。
シモンの右足の後ろ側から手前に刈り取るように動かすも、敵の右足は、地中深くに根を張る大木のようにビクともしない。
よく見ればシモンの右足は、硬質化した後に、畳を突き抜けて地面に突き刺すようにめり込んでおり、それが船のアンカーのような役割を果たしていたのだった。
「No.8
「こんにゃろうが……!!
短期決戦なこともあって、序盤からスタミナ度外視で技を繰り出す青桐。
だが敵の体さばき、特に腰を切って相手の技の始動を潰す動きにより、攻め手に欠ける展開が続いていく。
そうこうしている内に試合時間は30秒を過ぎた。
両者ポイント0の状態のため、今回の試合形式で言えば、青桐が次の試合への駒を進めることになった。
しかし彼の表情は浮かない。
その顔のまま一旦場外へと退場し、未だに姿を現さない5人目の出場者を待つことになった。
駆け寄って来る
「
「風の知らせによればそのようだな。木場、お前は知らないのか?」
「俺が知るかよ……はぁ~何やってんだろな対戦相手さんは? 青桐、あの4人どうだった?」
「……そっすね。アイツら
「ほぉ~……そいつはそいつは……
「残りの3人も、公式戦で連勝するのは厳しい相手っすね。出来て2連勝ぐらい? 試合時間4分なら体力が持たなそうっす」
「
「どーだろなぁ? 俺が体力馬鹿っつっても、限度があるしよぉ……ん? おい青桐、5人目来たぞ!! けどありゃ……」
「あぁ? あの野郎……
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