アフメドの仮説(5)
「今から説明することは一つの考えというか、仮説とでも言えばいいでしょうか。ただ驚かせてしまうかもしれません。落ち着いて聞いてください、いいですね?」
こんなことを言ったところで役に立つのだろうか?そう思いながらもアフメドは言わずにはいられなかった。頷く患者の夫を見て、アフメドは座り直すとサラと患者の関係について話し出した。
「まず、奥さんの目が覚めない理由については毎日説明しているように私たちにも分かりません。手術に問題はありませんでした。医学が進めばこういった事例についても原因がはっきりとするのかもしれませんが、まだ人体について解明できていないことはたくさんあります。医師は神様ではありません、救えない患者がいることも事実です。どれだけ長く生きても人は必ず死にます、私たちも例外ではありません」
「妻が目覚めないことを受け入れろと言ってるのか?」
「いいえ、そうではなくて。私は大切な人を十五年ほど前に亡くしました」
「何が言いたい?お前のことについてどうして今話す必要があるんだ?」
興奮している夫に追い討ちをかけることになるかもしれないが、このことを言うことを決めた以上、アフメドは下がれなかった。
「私の亡くなった妻と、あなたの妻の間には深い繋がりがあったと考えています」
「何が言いたい?」
頭を混乱させていたのは明らかだった。何の前触れもなく、そんなことを言われれば誰もがそんな顔を見せたかもしれない。
「お互いのことを探していたと思うんです。しかし私の妻は先ほど申し上げたように亡くなりました」
「何か根拠でもあるのか?」
それでも夫は落ち着きを失うことなく、アフメドが話すことに耳を傾けていた。ただアフメドが放った次の言葉を耳にすると、夫は一瞬にしてその落ち着きを失った。
「奥さんの左脇腹にある生まれつきのアザを見た瞬間、世界が揺れて崩れ落ちてしまうような感覚に襲われました」
ソファーから立ち上がり、アフメドの首に手をかけると、そのまま力を入れて掴んだ。
「今、何を言っているのか気がついているのか?手術中、そんな目で患者の体を見ているのか?」
息が詰まり、抵抗できないアフメドの首から急に手を放すと、夫は何も言うことなく部屋から出て行った。乱れた呼吸を落ち着けてからアフメドも部屋を後にした。
怒り狂ったように病院から出て行く患者の夫の姿を見たのだろうか?階段を歩くアフメドのところにエムレが駆けつけてきた。
「大丈夫ですか?」
「心配するな、別に何も起きてない」
「じゃあ、その跡は何ですか?」
どれだけ強い力でアフメドの首を掴んだかは明らかだった。首には彼の手の形がアザとなって残っていた。
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