アフメドの仮説(4)


夫が見せた動揺はアフメドの仮説が正しいことを裏付ける一つの材料になり、目覚めない患者も、離れ離れになってしまったサラのことを同じように探し続けていたのか。


サラと患者が似ていることも、同じ場所に生まれつきのアザがあることも、双子であれば説明がついてしまうことだった。ただサラはなぜそのことをアフメドにすら打ち明けようとはしなかったのだろうか?納得のできる理由が見つからないままだった。


次の日も患者の夫は病院を訪れ、患者である妻は長い夢から覚めることを拒むように目を閉じたまま横たわっていたが、生気に溢れ、数値にも問題はなく、ただ目覚めなかった。


昨日と同じく、ひとしきり彼が訴えることに耳を傾けた後、再会を願っていた女性について話そうとすると、あからさまに夫は他のことを口にし、何とかしてその話題から逃れようとしていた。


隠せば隠そうとするほどアフメドもそのことが気になって仕方がなかった。その妻の秘密に触れられることは彼を不快にさせているのかもしれないが、それ以上にアフメドは今まで触れることのできなかった真実に手が届きそうな気がしてならなかった。


長く目覚めない患者は他の医師の目にも留まり、何かとここ最近注目を浴びてしまっていたため、ほとんど話したことのない医師からも声を掛けられる機会が増えていた。


そのことを患者の夫も気が付いていただけでなく、不愉快に思っていたのはアフメドに伝わっていた。当初はこのことが他の医師や病院に勤める人に広まることでアフメドを追い込むことができると考えていたようだが、そうなりそうな状況ではなく、妻が珍しい患者として目を向けられているだけだった。


アフメドが薬を使って目が覚めないようにしているというのが、ここ最近の彼の主張だった。そんなことしてアフメドには何の利益もないことなど明らかだったが、夫はなぜか執着し、その主張を続けた。


妻の目が覚めない理由があり、それを突き止めようと必死な様子はアフメドの目に滑稽に映っていたが、どうすることもできなかった。飛ぶ力すらないスズメバチが太陽が照りつける夏に、アスファルトの道路の上で死を待つように動けないでいるのを目にしたときと同じような印象をアフメドは抱いていた。


「部屋で話しませんか?話したいことがあります」

「いいですよ」


アフメドはサラと患者の関係について話すつもりだった。カセットプレイヤーがある部屋に彼を連れて行った。


「ここは倉庫なのか?」


間違いではなかった。アフメドは毎日のようにここのソファーで音楽を聴いていたから、この部屋の散らかった状態にも、掃除が行き届いていないことにも、特に何も思うことはなかった。


ソファーに座るとアフメドはすぐに話しを切り出した。


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