第10話  イチゴとバニラ


ガル・ガルフは、セオ王子のお気に入り令嬢を探すべく、

大広間の中をグルグル、ズカズカと歩き回りました。


かなり無礼な感じで令嬢たちの顔を覗き込みますが、


ガル・ガルフがイケメンなのと、

生来の人懐っこさ、たくましい雰囲気のせいか、

令嬢たちは気分を害する事なく、ただ顔を赤らめて「きゃっ」とか言うだけでした。


「うーむ、どれも違う気がする。

セオの目に止まった女ねぇ…」


このガル・ガルフという男、粗暴ですが野生の勘が鋭いのです。


どの令嬢も、文句のつけようがない美女揃いでしたが、「これだー!」という決め手がない気がしました。


「まあ、甘いものでも食べて再チャレンジするか!」


ガル・ガルフはデザートがたくさん置かれているテーブルに向かいました。




一方、モモナはといいますと、


似合わないドレス、

高過ぎるヒール(15センチ)を着せられて、

動けないでいました。


(う、動くとこける…)


仕方ないのでデザートのテーブル前まで侍女カルディアに連れてきてもらい、

ずっとそこで直立していました。


(パーティーが終わったら、カルディアが迎えに来てくれるって言ってたから、

それまでの辛抱…辛抱…)

これはもはや修行でした。


辺境(ど田舎)で、自由にのびのびと育ってきたモモナにとっては、


洗練された王都のパーティー


などは性に合っていないのです。



ただ、美味しいものがたーくさんあるのは嬉しくて、

カルディアには

「太るから食べ過ぎたらダメですっ」

とキツく言われていたのですが、


構わずむしゃむしゃ食べていました。


「特にこの、チョコレートケーキときたら…」

夢のような味です。


むしゃむしゃしながら、まあ一応、

セオ王子の様子は見ていました。



とはいえ、王子は蝶々みたいな令嬢たちに囲まれていて、

頭の先ぐらいしか見えませんでしたが。


(心配することなかったなぁ!

あの人たちがいるのにセオ王子様に私が選ばれることはないもんね)


そう考えると、

金貨200枚貰えた上に、パーティーでご馳走食べ放題、

1ヶ月の豪華な部屋で無料滞在、

犬ちゃん猫ちゃんと遊び放題付きは、

悪い話ではない気がしました。


(王都ホーズにも来てみたかったしね。

帰ったらお兄様たちにお話ししよう。

あ、お兄様たちは来たことあるって言ってたなぁ。

まあイイや、お土産何にしよう)


などと呑気に考えていると、


ドカドカと、大きな男が近寄ってきました。


男はテーブルに手を伸ばして、


モモナが後で食べようと思っていた、

苺が乗ったカップケーキを食べてしまいました。(ひと口)

1つだけではなく、2つ、3つ、4つ…あと2つで全部なくなってしまいます。


男が最後の2つをワシっと掴んだ時、


「あーっ」


思わず声が出てしまうモモナ。


ガル・ガルフはモモナの方を向きました。


「なんだお嬢ちゃん、これ、欲しかったのか?」


モモナはこくんとうなずきました。


ところでモモナですが、ドレスに合わせたモリモリの髪飾りが前に落ちてきたせいで、

顔がほとんど見えていません。


せっかくの超可愛い顔は隠れています。


ガル・ガルフは、カップケーキの1つをモモナに渡してくれました。


モモナはかろうじて出ている小さな口で頬張ります。


「お、美味しいっ」


この城のシェフが優秀なのでしょう、

クリームにバニラをふんだんに盛り込んでいて苺とベストマッチ、


モモナが今まで食べた事のない美味しさに仕上がっておりました。



ガル・ガルフが、ふとモモナの顔を覗き込みます。


「んん?」


可愛い。


髪飾りで隠れていますが、


顔は多分超可愛い子です。


「おい、ちょっと顔を見せてくれ」


ガル・ガルフが手を伸ばし髪飾りをよけて、モモナの顔を見ようとしたとき、


ザワザワ!


広間にいた一同が、入口の方を見て騒ぎ始めました。





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