第11話  ヒント


大広間の入り口には、

大きな黒い犬が

ビシッ

と立っています。


「きゃー」

誰ともなく、令嬢たちが悲鳴を上げはじめました。



「サンダー!」

セオ王子は愛犬の名前を呼びました。

が、サンダーはガン無視です。


きゃーきゃー逃げる令嬢たちの中に入っていって、

サンダーは何かを探しています。


その様子を見ていたガル・ガルフが

「サンダー!

セオ、大丈夫だ、オレが連れ出してやるよ」


と言ってサンダーに近寄って行きました。


モモナは、

「あの黒いワンちゃん、サンダーっていうんだなぁ」とか思いつつ、


この小さな騒ぎを聞きつけてやってきたカルディアに連れられて、

他の令嬢たちよりは少し早く部屋に戻りました。




「可愛い子、いたんだがなぁ。

サンダーの騒ぎで見失ったよ」


パーティーが終わりセオ王子の部屋、

暖炉のそばで椅子に深く腰掛けながらガル・ガルフが言いました。


大きな黒い犬サンダーも、心なしか不貞腐れた様子で暖炉の真ん前を陣取り寝そべっています。


「あの子じゃないかなと思ったんだ。

でもあの子じゃないといいな。

オレが欲しい。」

暖炉の炎の明るさがガル・ガルフの顔を照らして、照れてるように赤くなって見えます。


「お前がそんなこと言うの珍しいな。

“穴がありゃー女なんて誰でもイイ”とかゲスな決めゼリフを吐くくせに。」

親友に対してセオ王子は辛辣です。


2人のそばで、側近ハリーが耳をダンボにして聞いていました。


「で、で、どんなご令嬢でしたか?」


ハリーもまた、ガル・ガルフとは戦友であり親友なのですが、

身分の差から敬語を使っています。


「実は、顔はあまり見えなかったんだ。

でもチラリと見える瞳が、まるで砂糖菓子のようで…」

ガル・ガルフはうっとりと語ります。


「…身長は?」

と王子。


「身長?」

ガル・ガルフとハリーが、同時に王子の方を向きました。


この時点でセオ王子が話に食いつくなんて珍しいのです。


「えーっとな、うーん女の身長なんぞ気にしたことないからな、

えー多分高過ぎず低過ぎず、このくらい?」


ガル・ガルフは、自分の顎下あたりを触りました。

彼の身長は190センチほどです。


セオ王子はニヤリと笑いました。

「では…違うな…」


ハリーの目がキラリと光りました!


好みのタイプを明かそうとしない王子からの、これはとても大きなヒントです!


「では、もっと大きなご令嬢なのですね⁈」

勝手な憶測で、

王子は豪華な美女が好みではないかと思っていたハリー。


セオ王子の顔が一瞬曇りました。


ハリーはその顔、見逃しません。

(なにせ一族郎党の命がかかっていますから)


「では!小柄なご令嬢なのですね⁈」


王子の口元がピクッと動きました。


これはビンゴです。


「お前がチビ好きだとは知らんかった。

通りで、スタイル抜群の美女軍団をソデにするわけだ。」

笑うガル・ガルフ。

「ああハリー、気の毒に。」


そう、ハリーの今までの苦労は“方向性の違い”があったようでした。



チビ、と聞いて、ハリーは

辺境アルハカから連れてきた小さな令嬢、モモナのことを思い出しました。


(まさか…モモナ様?)


ハリーはちょっとモヤッとしましたが、そんな事を言ってる場合ではありません。


「で、ではご令嬢の中でも小柄な方を改めて探してみましょう。

セオ王子、他に特徴は…?」


セオ王子は、

合法LKが好きっ

てことは決して言いませんでした。






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