第6話 和風イケメン vs  犯人 2/2

「ねぇ、金髪のキミ。わたしはひったくられたのが財布だと、口にしたかい?」


 犯人を見据えたまま俺へと飛んできた質問に、俺は慌てて答える。


「へっ?・・・・いや、俺は聞いてない、です」

「だろうね」


 恐る恐る犯人を見ると。

 あからさまに顔色を変え、和風イケメンを睨みつけている。


「ところでキミ、その手の甲の傷、それはいつどこでできた傷かな?」


 和風イケメンの言葉につられて見れば、犯人の手の甲には、ミミズ腫れのような一筋の傷が。

 犯人は慌てたように傷をもう片方の手で覆い隠しながら、口を開いたが


「これは…そう、今日学校で」

「被害者の籐のかごバッグ、だいぶ使い込まれていて、一部が壊れていてねぇ」


 和風イケメンは構わず、犯人の言葉に被せるようにして話し始める。


「まるで竹串のように飛び出してしまっていたんだよ。危ないから直すようには言っておいたけどね。それでね、その飛び出した部分に、犯人のものと思われる皮膚片と血液が付着していたんだ。キミ、もし犯人じゃないと言うなら、もちろん捜査に協力してくれるよね?ああそうだ。財布にも指紋がついているはずだから、指紋だけでも取らせてもらえるかな?」


 穏やかながらも有無を言わさない男の口調に、犯人は悔しそうに舌打ちをして横を向く。


「あのババァ、老い先長くもないくせに、随分溜め込んでる強欲ババァなんだよ。それに、校則違反した生徒を見つけては、すぐ学校側に言いつけるんだ。あのババァには何のメリットも無いって言うのにさっ。いいだろ、そんなヤツの金くらい。僕の方がよっぽど有効利用できる」

「キミはまず、その腐りきった考えを叩き直す必要があるね。まったく、今時の学校は学問ばかりを詰め込んで、道徳の方はすっかり置いてけぼりなのかねぇ」


 やれやれ、とでもいいたげな顔で、和風イケメンは両手の平を上向け、軽く肩を竦める。

 そんな、気障にも見える仕草さえ、その和風イケメンにかかれば何の違和感も無いのだから不思議だ。

 その直後。

 制服姿の2人組のお巡りさんがやってきた。

 うち1人は、当然のように手袋をした手で俺のパーカーのポケットから見覚えの無い財布を取り出し、持って行った。

 もう1人は、呆然と立ち尽くす犯人を捕まえて、そのまま連れて行ってしまった。

 2人とも、不自然なほどに俺をまるで置物か何かのように扱い、声を掛けられる事は一切なかった。


 あれ?

 そういえばあの和風イケメン、どこ行ったんだ?


 気づけば、いつの間にか和風イケメンは姿を消していて。

 連れられて行く犯人を見送った俺は、チラリと見えた犯人のパーカーの裏地の色が、黒だったことにようやく気付いたのだった。

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