第10話 館長のライバル
「魔王軍四天王のうち3人もやられてしまったぞ!」
「魔王様、奴らはこちらに向かっております。こちらも城内のアンテッド兵を総動員して迎え撃ちましょう!」
魔王と魔王のお付きが轟たちの襲撃についての対応を練っていると、黒い道着の男が現れる。
「おい、魔王、お前たちみたいに魔法に頼るこの世界の連中では轟は止められねぇ! 俺が轟とやってやるよ!」
「大岩か! お前を轟と同じ世界から召還しておいてよかった! 轟を止めてくれ!」
「そのつもりでお前の誘いに乗ってこの世界に来たんだ。お前らがどうなろうが知らんが、俺は轟と決着がつけられればそれでいい」
大岩益勝52歳、武神流空手の館長であり、元の世界では轟のライバルの空手家であった。
「魔王様、大岩の奴、大口を叩いておりますが、放っておいていいのですか?」
「構わん。一応、四天王最後の戦士だし、奴が轟と潰し合ってくれている時に二人とも魔法で消し飛ばしてやる」
魔王は大岩と轟が戦っている時に二人とも不意打ちで殺すつもりでいた。
「よう、轟、こんなところでお前に会えるとは思わなかったぜ!」
魔王城を進む轟たちの前に大岩が立ちはだかる。
「てめぇは武神流空手の大岩じゃねぇか。なんでおめぇがここに?」
「魔王とかいう悪魔にこの世界に呼ばれたのよ! おめぇは女神とやらに呼ばれたらしいじゃねぇか?」
「ああ、そうだ。まさか、おめぇが悪魔に魂を売るとはな! 見損なったぞ、大岩」
「バカ野郎、男と男の真剣勝負に悪魔も女神あるか! そう思わねぇか、轟」
「まあ、違げえねぇ」
二人は接近し、お互いの拳が当たる間合いまで近づく。
「館長、ここは我々が戦ってもよいのでは?」
「うるせぇジャック! おめぇらはこの戦いを黙って見ていろ! あと、ナイフを二つ持ってこい!」
轟はナイフを二つ用意すると、自分の足のかかとの後ろともう一本は大岩のかかとの後ろに突き刺した。
「ほう、ナイフエッジデスマッチか。要は後ろに下がらず撃ち合いたいってことだな?」
「おうよ、一撃會館の空手にバックギアはないんでな! 受けてくれるな?」
「おもしろい!」
轟と大岩はナイフの前に片足のかかとを上げて、互いに向き合い、正拳突きの打ち合いを始める。
「ジャックさん、あの黒い道着の男、相当強いですよ! 館長とまともに打ち合っているのに一歩も後ろに退かない……」
「館長とアイツの力は五分五分だろう、みんな一列に並んで正拳突きで館長を応援しよう!」
「押忍!」
一撃會館の門弟たちは一列に並び轟を信じて正拳突きで応援する。
「アイツらめ、本当にバカ野郎ばかりだぜ……」
轟が弟子たちの応援に感動しているその時、大岩は武神流空手奥義の無呼吸連打の突きを放ってくる。
轟は必死に防御するが、無呼吸連打の勢いは凄まじく、少し後退し、足がナイフに触れて、かかとから血が流れる。
「どうした轟、そんなものか!」
大岩は更に無呼吸連打の速度を上げるが、轟は得意の回し受けで何とか無呼吸連打を食い止める。
「くそ、この無呼吸連打は一度呼吸を整えないと、こちらの意識がやばくなる。よく粘りやがったな……」
大岩も肩で息をしながら、無呼吸連打をいったん止めて、通常の突きに戻そうとする。
「一瞬、お花畑と川が見えて危なかったぜ! 武神流の奥義大したもんだ! 今度は一撃會館の奥義を見せてやろう!」
轟は足を螺旋のようにひねったかと思うと、そのまま腰も併せてひねり、足から肩に伝達させた力を腕に伝達させるようにひねりながら大岩の胸部に突きを入れる。
「お前、この技は、極めやがったな……」
大岩は口から血を吐き、その場に倒れる。
「こいつは『透し』という俺の必殺技だ。足のひねりで生み出した力を腕まで伝えて放つ一撃會館の奥義だぜ!」
轟は自分の前に倒れた大岩を抱きかかえ、背中をさすってあげるのであった。
「完敗だぜ、轟、殺せ! 俺は悪魔に魂を売ってしまった。武道家として失格だ」
「まあ、そう言うなよ。おめぇがいないと俺の技も磨かれねぇ! また、元気になったら、やりあおうぜ!」
元々、悪魔と女神のことなどどうでもよい轟にとって、大岩を殺す理由はなく、二人は健闘を称え合い、握手するのであった。
しかし、その瞬間を狙って魔王は詠唱を始めていた。
「魔王の名を持って命じる。大気を震わせ、鋭い旋風を天に突き上げ荒れ狂う暴風にてすべてをなぎ倒せ! 『デスサイクロン』」
突如、竜巻のような暴風が轟と大岩を襲うのであった……。
つづく。
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