第11話 館長、魔王と拳で真っ向勝負!
「おい、お前らサンチンの構えで風に吹き飛ばされないようにしろ!」
「押忍!」
※ サンチンとは空手の型の一つで、やや腰を落とし内股でレの字に足を構える
守りの型である。
「館長、大岩さんが吹き飛ばされてますが、助けますか?」
「奴なら大丈夫だ! 大体ライバルキャラは死なねえでひょこっとまた現れるのが俺のいた世界の常識よ!」
(かなり飛ばされているが、大丈夫なのか?)
高弟たちはどんどん遠くに飛ばされ見えなくなる大岩を助けなくてよいのと疑問に思ったが、轟のいた世界の常識とやらを信じて、サンチンの構えで魔王の風魔法に耐えるのであった。
「私の魔法をそんな構えだけで耐えるとは、デタラメな連中だ!」
「お前が魔王か! こんなちんけな魔法なんて使わねえで、てめぇの拳で勝負しろ!」
「黙れ! だいたい、なんで拳で戦わねばならん! この時期、賢いヒロインコンテストで、みんな華のある女性ヒロインが知恵で悪と戦っている中、くそむっさいオッサンが力任せに拳で相手を倒していくなど、この作品くらいだぞ!」
「うるせぇ! この作品はな、80年代、90年代に少年だった連中に大事なモノを思い出させるために作られた物語なんだよ! ごちゃごちゃ言わずに拳で来いよ!」
轟は魔王の間合いに飛びこみ、魔王の左手首と自らの左手首にチェーンで繋がれた手錠をはめる。
「貴様、これは何の真似だ!」
「この手錠は『魔封石』という石から作られているらしく、嵌められたら、魔法は使えなくなるらしい。つまり、てめぇは俺と拳で打ち合うしかなくなったのさ! チェーンデスマッチといこうや!」
「貴様、本当に何を考えているのだ、イカれた勇者め!」
魔法が使えなくなった魔王は轟と真っ向から打ち合うことになった。
異世界モノにおいて魔王が拳で真っ向勝負をするなど前代未聞の出来事であり、轟の高弟たちも二人のガチンコ勝負を固唾を飲んで見守る。
「舐めるな、轟!」
魔王の拳が轟のガードの上に叩きこまれるが、あまりの衝撃に轟も膝をつく。
「なんでぇ、ただ威張っているだけのデカ物かと思ったが、なかなか強いじゃねぇか!」
轟は膝をついたが直ぐに立ち上がり、魔王の腕に上段蹴りを返す。
こうして轟と魔王はしばらく突きと蹴りの応酬になり、どちらも一歩も退かない。
「くそ、魔法さえ使えれば、貴様なんぞと互角ということはないのだが……」
「その割にはイキイキしてるじゃねぇか! おめぇもやっぱり男ってことよ!」
轟と魔王は再び激しく打ち合い、二人は下にマグマが流れる崖っぷちまで移動していく。
「おい、轟、私をこの崖から落としたところで貴様も道連れになるぞ、いいのか?」
「道連れだろうがなんだろうが、真剣勝負にそんなものは関係ねぇのよ!」
轟は魔王を崖っぷちまで追い詰めた後も連打を浴びせ、魔王は崖から落ち転落する。
「やばい、館長も一緒に落ちるぞ!」
「来るな! お前らはこの世界で空手を広めろ! 鍛錬を怠るんじゃねぇぞ!」
轟は最後に弟子たちにそう言うと、魔王の腕に嵌めたチェーンに引っ張られ、一緒にマグマの中へと転落していくのであった……。
つづく。
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