第4話 一撃會館、魔王軍と全面抗争に!

「魔王様、轟とかいう勇者が人族の街に次々と道場なるものを作り出し、配下を増やして勢力を拡大しています!」


「その轟の一派とやらは、そんなに危険なのか?」


「はい。奴らは白い道着とかいう冒険服を着ており、ダンジョンに入っては宝箱を試し割りなどと中身も確認せずに拳や蹴りで粉砕し、我らが仕掛けたミミックたちも奴らがダンジョンに来るたびに怯えるようになり、中には引退を申し出る者も出ております!」


「なぜ宝箱の中身も確認せずに粉砕してしまうのだ?」


「わかりません。それだけでなく、昇段試験とか言って、ゴブリンの巣穴を襲撃したり、こちらが魔獣やゴーレムを差し向けても己の武を試すなどと言って、喜んで立ち向かってきます! 奴らの狂戦士ぶりに中には腹を見せて服従の意志を見せる魔獣まで現れ、このままでは魔王国は崩壊します!」


 魔王はなぜ人間たちがそんなに好戦的になったのか、全く理解できないでいた。

 魔王と言えば、名のある冒険者でも震えあがり、これまでは魔王城に近づく者さえいなかったが、最近は毎日何十通と届く果し状なる手紙が届き、ちょっとしたアイドルよりも人気のある存在へと変わっていた。


「ここ数百年、異世界から女神が召還する勇者なる者と剣や魔法で戦ってきたことはあるが、肉弾戦を求めてくる奴などいなかったぞ! それもわしのことを賞金首みたいな感覚で挑戦してくる者まで現れ始めた……。歴代魔王で勇者に敗れた者は何人もいるが、肉弾戦で敗れた者など一人もいない。轟とかいう勇者は一体何者なのだ?」


「とにかくイカれた連中です。一日中岩を蹴っていたり、素手で魔獣を殺したり、とにかく危険です。早めに手を打たないと今後も奴らは増え続けますよ!」


 魔王の側近が案ずるとおり、弟子のジャックがオーガを素手で倒した話は人族の国々に一気に伝わり、轟の一撃會館は異世界中のあらゆる街に広まり、今や女子供でさえ護身のために習うというくらい一撃會館の道場は各所に広まっているのであった。


「館長! 魔王に果し状を出したら返事がきました!」


「魔王だ~? なんだその焼酎の名前みてぇな野郎は?」


「焼酎? いえ、館長、魔王と言えばこの世界で最強の男ですよ! うちの黒帯門下生たちが今一番倒したい男って奴ですよ!」


「そいつが果し合いに応じると言うのか?」


「はい! ただし、館長と戦わせろと言ってます。どうされますか?」


「そりゃおめぇ相手の道場のトップから勝負を申し込まれれば、やらないわけにはいかないだろ! まったくおめぇらも勝手に果たし状なんて出しやがって、こんなこと、昔、弟子が中国で少林寺と揉めちまった時以来だぜ!」


「少林寺? まあ、よくわかりませんが全国から集まった黒帯の門下生たちが館長と一緒に魔王城に乗り込むとこの街に集まっています!」


「俺の門下生はやんちゃな奴が多くて困ったもんだぜ!」


 轟はいつもどおり、酒瓶の先っぽを手刀で叩き切ると、酒をラッパ飲みし、集まった門下生たちのところに向かう。


「館長! 魔王とやり合う時が来ました! お供します!」


「おめぇらと来たら、勝手に他流派に喧嘩売りやがって! まあ、この世界に来る時に女神とか名乗るねぇちゃんが魔王とかいう奴を倒せとか言っていたからやるしかねぇわな! だがよ、相手の道場の女子供とか弱い奴には手を出すんじゃねぇぞ! 武道っつうのは弱者を守るもんだからな! わかったな!」


「押忍!」


 街に響き渡る数千人の押忍という掛け声。

 そして、一撃會館と魔王軍は遂に全面抗争へと進んでいくのであった……。

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