第3話 オーガの道場破り

「館長、大変です! オーガが襲ってきました!」


「オーガってなんだ?」


「人喰い鬼ですよ! このままでは、街に大きな被害が出ます!」


「道場破りか! ロスで道場開いた時に地元のギャングが乗り込んできたことがあったっけな……」


「ロス? ギャング? とにかく急いでください!」


 慌てて飛び込んできた門弟の報告を聞いて、轟はギルドを飛び出し、オーガの元へと向かう。


「お前が轟か? 俺の手下のゴブリンどもを壊滅させただろ?」

「なんでぇ、弟子の仇を取りに来たのか? なかなか見どころのある師匠じゃねぇか!」

「師匠……? 何言ってんだてめぇ! ゴブリンなんざどうでもいいが、俺の縄張りを荒らしたことの責任は取ってもらうぞ!」


 オーガはいきなり詠唱を始め、轟に対して火炎魔法を放つ。


「喰らえ、ファイヤーボール!」


 オーガが放ったファイヤーボールを轟は回し受けで受け流す。


「おいおい、でけぇ図体して魔法かよ! 本当にこの世界のタイマンはしらけるな……」


 轟がオーガに歩み寄り正拳突きを喰らわせようとすると一人の弟子が代わりに戦うことを買って出る。


 名乗り出たのは以前にギルドで轟と喧嘩になった大柄の騎士で、騎士は轟に負けた後、轟に弟子入りしていたのであった。


「おう、ジャック、おめぇか。本来なら館長同士でケリをつけるところだが、おめぇに譲ってやるよ。でも、いきなりどうした?」

「俺はコイツに好きな女を殺された。その敵討ちがしたい!」

「そうか……。俺もロスのギャングに妻の愛子が襲われそうになった時はギャングどもを皆殺しにしてやったっけな……。その女の仇、お前が討ってやれ!」

「ロス? ギャング? お、押忍! 館長やらせてもらいます!」


 轟に代わりオーガと対峙するジャック。


「人間どもが舐めやがって、何がタイマンだ殺してやる!」


 オーガは手に持っていた金棒でジャックを叩きつけるが、ジャックは上段受けで防ぐ。


「館長、ジャックの腕、血が出てますが、大丈夫ですか? 相手はあのオーガですよ!」


 轟ではなくジャックが戦うことに不安を覚える門下生。


「おい、おめぇら! 兄弟弟子を信じてやらねぇでどうする! アイツは負けねぇよ! ジャックが勝つように応援しろい!」

「お、押忍!」


 ジャックは轟から習った後ろ回し蹴りでオーガの右腕を蹴り上げ、金棒を落とさせる。


「人間め、舐めやがって! そんなに素手でやりたければ、やってやるよ!」


 オーガはジャックのガードの上からガンガン拳を打ち込み、ジャックは次第に後ろに下がっていく。


「館長、ジャックさんではやはり厳しいですよ!」

「うるせぇ! ジャックのために正拳突きをして応援してろ!」

「お、押忍!」


 門下生たちは一列に並び、ジャックのために正拳突きをしながら、ジャックを応援する。


「おい、ジャック! 俺がこのあいだ教えたをやってみろ!」


 オーガの連打で足がガクガクし始めたジャックであったが、轟の声に気づき、ある正拳突きを試そうとするが、オーガの連打が激しく、なかなか打つタイミングがつかめない。


「おい、ジャック、お前の仲間たちを見ろ!」


 ジャックは轟の声に気づき、門下生たちを見ると、みんな必死に正拳突きを打ちながらジャックを応援している。


(アイツら……。オーガの連打は威力はあるが、打ち込みの際に一瞬のスキがある! ここだ!)


 ジャックはオーガが右手を振りかぶった瞬間に懐に入り込み、オーガの胸元に正拳突きを連打する。


 ジャックの正拳を突きを受けたオーガは、一瞬動きが止まったかと思うと、そのまま前方に倒れて気を失った。


「館長、ジャックさんのあの正拳突きはいったい?」

「あれは背筋の力を腕に連動させた突きだ! インナーマッスル突きってやつだな!」


 門下生たちは満身創痍のジャックに近寄り、倒れないように肩を貸す。


「おい、ジャック、よくやったな! これからはこれを巻け!」


 轟は腰に巻いていた黒帯を取ると、ジャックの首にかけた。


「か、館長……」

「俺のお墨付きだ! おめぇは立派な黒帯だ!」

「押忍!」


 ジャックは腕を前方で交差させ、大声で「押忍!」と叫ぶのであった。


 こうしてオーガの襲撃は一撃會館門下生ジャックの返り討ちにあい、このことは魔王軍にも衝撃を与えるのであった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る