第1話 僕の名前は幸也、君の名前が思い出せない

小さい頃僕はある少女と出会った。

僕をAと表し、彼女を君Bと言おう。

僕は転勤である小学校に転校してきた。

僕は最初の挨拶が大事だと思い、笑って自分のことを話した。

『こんにちは!僕の名前は久能幸也(くのうゆきや)。よろしくね』

そしたら、空いてる席に座るとみんなが僕に寄ってたかって言ってくる。

『なあ、どこからきたの?』ってね。

その質問は100万回聞いた。

答え方はひとつだけ。

『僕は沖縄からきた』ってさ。

そしたら周りはみんな沖縄の話で持ちきりさ。

でも、その輪から離れて1人で絵を描く少女がいた。

それが君Bだった。

彼女のところに行くと彼女はひたすらに黒のクレヨンで自由帳を黒で塗りつぶしていた。

僕が黒になってる理由を聞く前に彼女はこっちを見て言った。

『黒は全部を真っ暗にするの。光があるより真っ暗闇の方が私は好き。あなたは何色が好き?』

『僕は黄色が好きかな。光は目立つし、僕は目立ちたいから』

『あー、だから転勤族で転校するたびに注目を浴びたいからみんなの輪で笑っているんだね。でも、それって親の転勤が無くなったら目立たなくなるから、今のうちに目立っておきなよ』

僕は彼女の言葉にイラッとしたが、無視すれば何ら問題がないことに気づくと、僕はまた輪に戻った。

それから、数ヶ月経ってから絵のコンテストで最優秀賞作品があの子だと知り、僕は彼女の絵を見に廊下に行くと彼女の絵には黒い塗りつぶした中に黄色い服を着た人が立っていた。

それを見て僕はこれは僕だと気づいた。

その絵を見ていたら隣に彼女がいた。

彼女は僕を見て言った。

『真っ暗闇に黄色はいいアイデアかもねって思ったの。またアイデアあったらちょうだいね』

『あのさ、この絵...最高だよ。賞も取るなんて凄いよ』

『私、誰かに賞をつけるとか嫌い。みんな平行線上で一緒が1番良いことだと思うよ。じゃあね』

彼女が去る前にもっと話したくて彼女の腕を掴んで言った。

『実は僕、もっと君のことが知りたいんだ。君の名前教えてよ』

『私の名前はXXXX』

やっと名前が知れたのに、小さい頃の記憶が曖昧すぎて僕は彼女の名前が思い出せなかった。

でも、曖昧だった記憶の中で僕Aと君Bは僕Aが引っ越す直前に話をしたんだ。

とてつもなく大事な話だった。

僕Aと君Bは公園のベンチに座って最後話をしたんだ。

『あのさ、僕ね明日になったら東京に行くんだ。最後に XXXXと話せて嬉しかったよ。最後だからさ、これ受け取ってくれる?』

そう言って渡したのが、クマの付いたキーホルダーだった。

君Bは笑ってお返しとしてあの日に賞をとった絵を手渡した。

そして君Bは言った。

『これは私と幸也のアイデア作品だから、幸也に持っていてほしいんだ。またどこかで出会えたらその時は私のこと覚えておいてね。バイバイ、幸也』

それが、君Bと会話した最後の言葉だった。

あれから僕は彼女がどうなったかは知らない。

僕が彼女のことを知ったのはそれから20歳になってからだった。

小学2年生の時に東京に引っ越してからは、それ以降はどこにも転勤していなかった。

埼玉県の川口で過ごした半年間は僕にとっては東京と同じく楽しい時間だった。

でも、まさか川口でよく遊んでいた奴と東京の20歳の集いで会えるとは思っていなかった。

僕はいつか会いたいと思っていた君Bの名前さえ、何度も思い出そうとしたが思い出すことが出来なかった。

それが今日分かった日でもあったのだった。




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