岩手のまちの秋祭り
一陽吉
娘のおどろく顔がかわいくて
「うわあ……」
岩手町で毎年十月最初の金土日の三日間で催される秋祭り。
今日はその
夕方で、あたりは薄暗くなっているが大通りには数えきれないほどたくさんの人がいて、私たちと同じく行列を一目見ようと集まっている。
地方の片田舎での祭りではあるが、五十軒ちかくの露店が通りに並ぶため、それだけでも賑やかで楽しめる。
私と娘は大通りにある十字路そばの銀行前にいて、その様子を見ていた。
パレードは華やかな衣装を
独特の音色や動きはとても心地よく、何度でも聞いていたくなる。
それらが行くと、いよいよ山車の登場である。
「わあ……」
五十メートルほど離れた曲がり角から現れた一台の山車。
高さは二階建ての建物に匹敵し、幅は車道一つ分あって奥行きは五メートルくらいある。
車両でいえば大型のダンプが近いだろうか。
それが、前面部分に小さめの太鼓を打つ五人が横に並んでおり、その背後には歴史上有名な武士などの大きな人形が飾られてある。
両脇には造花などが飾られ、山車の後面には着物を着た歴史の美人を表した人形があって、大きな太鼓に向かってバチを振り下ろして打つ二人組がいる。
発電機が組み込まれているため、その電力でライトアップされ、二本の太く長い綱によって六十人ほどの
そういった構成の山車が、大町組、新町組、の組、愛宕組、ろ組と、五台通るのだ。
そして、その行列が各自太鼓を叩きながら一列に並ぶのである。
それはまさに圧巻。
見るものを圧倒する。
ゆえに娘も。
「うわあ……」
「うわあ……」
「うわあ……」
「うわあ……」
「うわあ……」
と、目の前を通るたびに感嘆の声をもらしていた。
全ての山車が行くと、最後は北上川清流太鼓の屋台車。
山車と違い、こちらは屋根のついた直方体的なもので、東屋のように柱があって壁のない作りで、十以上の小太鼓と大きな太鼓をのせ、それぞれ打っている。
「……」
声こそ出さないが、娘は見入ってるようだった。
それが過ぎればパレードの列は最後。
帰り始める人がいるなか、娘は余韻に浸ってじっと立っていた。
「今度は露店を見て回ろうか」
娘の頭を撫でながら声をかける私。
「うん。
「ああ、いいよ」
笑顔で言う私に、娘も微笑んで答えた。
「来年はお母さんと一緒に見たいね」
「ああ、そうだね」
娘の手を引きながら、太鼓の音色を耳に残しつつ、私は祭りで賑わう夜の町を歩いた。
岩手のまちの秋祭り 一陽吉 @ninomae_youkich
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