幕間:言葉なき誓い

~アーガイル騎士団入団の頃~



 玄関口でロゼッタがアーガイルの足に取りついて離れなかった。アーガイルは困ったようにその頭を優しく撫でる。


「ロゼッタ、もう行かないといけないんだ」


 それでもロゼッタは離れようとせず、兄の太ももに押しつけた顔を何度も横に振った。

 母が眉尻を下げて笑みをこぼす。


「ロゼッタ、言うこと聞きなさい。アーガイルが困ってるわよ」


 父がそっとロゼッタをアーガイルから引き剥がそうとすると、ついに彼女の涙腺が決壊する。


「やだああぁ!! 行っちゃヤダあぁ!!」


 アーガイルはしゃがみこんでロゼッタと目線を同じくする。


「騎士団宿舎に移るだけだ。一生帰って来ないわけじゃない」


「本当に?」


「ああ、本当だぞ。それに、俺がぶっ倒した魔物の話だって聞かせてやれる」


「本当?」


 ロゼッタの目が輝く。この街に住む女の子にしては珍しく武勇伝が大好きなのだ。


「色んな話聞きたいだろ?」


「うん!」


 ロゼッタが笑顔になる。

 母はホッとしたように足元に娘を抱き止めて、息子とまじまじと見つめた。その眼には光るものがある。


「いつの間にかこんなに大きくなって……」


「母さんまで泣くなよ」


「いいか、アーガイル」父が優しげな目を向ける。「シルディアの騎士として戦うというのは誉れなことだ。誇りを持って戦うんだぞ」


「分かってるさ。そのつもりだよ」


 父は威厳を滲ませた表情の中に、親としての慈しみを見せた。


「私たちはお前を愛してる。いつか自分で剣を置くその日まで戦うんだぞ。分かってるな?」


 ──決して死ぬな。


 そこに込められた思いに、アーガイルは強くうなずいた。

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