幕間:小競り合い

~魔王城からシルディアへの途上~



「お前ずっとついてくんの?」


 アーガイルが面倒臭そうに尋ねると、シリウスはフッと鼻で笑った。


「ボクだってアンタと一緒に居たくはないさ」


 そっぽを向くシリウスを横目に背負った自分の身体の位置を調整するアーガイルは陰鬱な思いだった。


 ──なんで自分の死体を担がにゃならんのだ。


 それも魔王の発案のせいだった。

 アーガイルにとっては誤算ばかりだ。世界の半分を手に入れるという漠然としたイメージが、目の前に乱雑に投げ出される小さな問題を片付ける隅に追いやられていく。


「なんでアンタなんかが世界の半分を貰い受けたんだ」


 アーガイルの方も見ずにそうこぼすシリウスは、それ以上の何かを言いたそうだった。


「お前より有能だからじゃないの?」


 シリウスが鼻で笑う音で応える。


「ボクにこそ相応ふさわしい」


「じゃあ、魔王に言えばよかっただろ。『世界の半分下さい』って」


「そんな不遜なことできるわけないだろ。それから、魔王様と呼べ」


 アーガイルは溜息で応戦だ。これほどまでに不毛なやりとりを自分の死体を担いでやるものではない。

 そんな彼の眉がピクリと動いた。


「ちょっと待て。このまま死体を放置してるのを誰かに見られたらやばいんじゃないか」


「ああ、そういえば、魔王様からこれを預かったぞ」


 そう言って立ち止まると、シリウスは指輪をひとつアーガイルに投げて寄越した。


「なにこれ?」


「透明化の指輪だ。見て分からないのか、無能め」


「お前、早く言えよ!」


 アーガイルの叱責しっせきをかわすように歩き出した。


「お前、忘れてただろ!」


 シリウスは無視をして速度を上げる。


「忘れてたんだな? 無能だからな!」


 シリウスは振り返ってギロリとアーガイルを睨みつけた。


「ボクは魔王様に信頼されてるんだ!」


 そう言い残してズンズンと歩いていく背中を見つめながら、アーガイルはひとつ。


「反論になってねーだろ」

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