7:ヒントちょうだい!

 半分を半分にすると四分の一だ。俺は人間の敵になって、死んだことになった上で世界の四分の一をリナに横取りされるのか……。

 だが背に腹はえられない。


「いいだろう。その代わりマジで協力しろよ」


 魔王が玉座で身動みじろぎする。


「話し合いは済んだか?」


 リナはにっこりと笑い返す。


「はい! 邪魔が入りましたが、私の意志は固いです!」


「邪魔ってなんだよ……」


 リナは俺を睨んで、魔王に直球で尋ねた。


「シリウスさんのことが知りたいんです。素晴らしい力の持ち主ですよね?」


「そういえば、アーガイルと一緒じゃないのか? シリウスは元気か?」


「そりゃあもう、元気すぎるんでしずめるのが俺の役目になってますよ」


「シリウスのことなら彼奴あやつくがいい」


 リナは白々しく演技を続ける。


「小耳に挟んだんですけど、シリウスさんは魔王様が素敵な魔法で作ったとか?」


「うむ。最果ての火山にうつわを投げ入れて火の化身を顕現けんげんさせたのだ」


「器っていうのは、シリウスさんの身体?」


「ご明察。リナよ、なかなか頭が良いな」


 この魔王、褒めたり持ち上げたりすると露骨に嬉しそうにする。意外と単純だ。

 まだ何か話そうとするリナを俺が制した。


「おい、もういいだろ。魔王様は忙しいんだ。魔王様、大変申し訳ありません」


「なによ」リナが小声で歯向かってくる。「もっと情報を聞き出さないと……」


「それ以上やってボロを出したら水の泡だ。今は必要最低限の情報でいい」


「おい」と魔王に話しかけられる。その表情はどこか不満そうで、俺はドキリとする。


「なんでリナには馴れ馴れしくて、私には堅苦しいのだ?」


 ずっと黙って見守っていたセバスチャンがクスリと口元を押さえた。


「え? いや、魔王様は魔王様ですから、こんなバカと一緒にはできません」


「なによそれ」とリナ。


 魔王が玉座から勢いよく立ち上がった。


「私にも馴れ馴れしくしろっ!」


 そう叫んで魔王は出て行ってしまった。なんなんだ、あの癇癪かんしゃく持ちは?


「あーあ、怒らせた」


「お前のせいだからな!」


「まあまあ、お二人とも。魔王様もお仲間が増えてお喜びなのですよ」セバスチャンの目がリナの肩口に向けられる。「おや?」


 リナの肩口に手を伸ばしたセバスチャンが青い髪の毛を一本まみ上げた。リナが慌ててそれを奪い取る。


「あー! シリウスさんが私に寄り掛かって寝てた時のやつだ!」


「シリウス様とお会いになったのですか?」


 セバスチャンの目が光る。俺はセバスチャンに挨拶をして、リナの首根っこを掴んで部屋の外に連れ出した。


「余計なこと言うなよ!」


「なによ! 私のせいでうまくいってるでしょ! 感謝しなさいよ!」


「俺にしたら全然うまくいってねーよ!」


 俺のプランが見る見るうちにボロボロになっていく。


「とにかく、最果ての火山にシリウスぶち込めば解決なんだから、早速行くわよ!」


 リナの言うことももっともだ。さっさとシリウスを復活させないといけないことは変わらないのだ。

 魔王城を出て、シリウスの身体を隠した場所に急ぐ。先に辿り着いたリナが青ざめた顔で辺りをキョロキョロと見回していた。


 おいおい、マジかよ……?

 俺が声をかけるよりも先にリナが涙目で振り返った。


「どうしよう、シリウスがどっか行った!」

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