大文字伝子が行く92

クライングフリーマン

大文字伝子が行く92

=== このお話は、言うまでもなく、フィクションです。===

 午前9時。伝子のマンション。PCルーム。

 「如月診吉も被害者。です・パイロットは、『シンキチ』という名前の人を全部殺したいんじゃなくて、『シンキチ』という人の人生を奪いたいんじゃないでしょうか?ただ、殺しまくるなら、もっと色々の方法があるでしょう?」と、伝子は理事官に言った。

 「ううむ。何だか知らないが、かなりの恨みを持っているようだね。如月診吉は、ネットで知り合ったそうだ。Basebookだ。つまり、逢ったことはない。話が盛り上がって、恨みサイトを立ち上げさせたらしい。後で利用されたと分かったらしい。酒屋の旦那の件だが、はなからおかしいと思っていたのかね?」

 「大雑把に言えば、社長を殺した後で、会長を殺しても良さそうなのに、ストップさせた。それが気になっていたんです。詰まり、使い魔はターゲットの会長と旧知だった。だから、社長を殺したくなかった。多分、この会長の件は、です・パイロットに報告していなかったんじゃないでしょうか?」

 「妙な言い方だけど、パブリックな殺しにプライベートな殺しを混ぜた。です・パイロットに対するささやかな抵抗だったんだよね。」と、横から高遠が言った。

「矢追シンキチさんですが、社長さんと一緒に松下君に泣いて謝ったそうです。社長さんの娘さんと松下君の結婚式を繰り上げたそうです。矢追シンキチさんの希望で。」

 「元気な内に、という訳か。式は、やすらぎほのかホテル東京かね?」と理事官が尋ねると。「その通りです。」と、高遠は笑顔で応えた。

 正午。EITOベースワン。臨時記者会見場。

 「結論から先に申し上げます。箕輪清吉さんは、義兄の馬場幸三郎氏による殺人です。EITOの職務である、テロリスト対策の範囲外です。警察の担当です。『シンキチさんを守れなかった』という中傷は直ちに止めて頂く。お願いではない。要求だ。」

 横にいた久保田管理官が斉藤理事官に替わって立った。

 「憶測により中傷する週刊誌。それに便乗して『こたつ記事』を書く新聞。新聞の記事を元に野党国会議員が法案審議を放棄して、与党を追求。もうそんな時代じゃないでしょう!!」

 手を挙げながら発言する記者がいた。「大曽根新聞の高木です。義兄の殺人という根拠はあるんですか?です・パイロットではない、という根拠はあるんですか?」

 「メモを配って下さい。」と理事官が言うと、キャビンアテンダントみたいな美形の女性職員が、記者達にメモを配った。

メモには、こう書いていた。

《物置殺人ですか?我々の組織にそんなことする人、いたかなあ。私は、しないなあ。『シンキチ』っていうだけで?私の場合は、もっと凝ってるよ。新しい使い魔より》

 「読んだ通り、敵である使い魔が、ご丁寧に弁護してくれているよ。もうジャーナリストなんて、ほざくな!捜査妨害をするな!!怒らせてなんぼ、なんて平安時代みたいな手法は古いんだよ!!悪意のリレーはうんざりだ!!!」

 同じ頃。伝子のマンション。

 「管理官、激高していたね、珍しく。」と高遠が言うと、「理事官を激高させる訳にはいかないからな。警察の管理官は代わりが幾らでもいるが、EITOの理事官の代わりは、今いないからな。」と、伝子は応えた。

 「おねえさまの代わりもいないけどね。」と、玄関で言ったのは、あつこだった。

 「そんなに動き回って大丈夫なのか?あつこ。」と伝子は言った。

 「正義の活動は出来なくとも通常の運動は出来るわ。何もかも回りに任せて、動かないのはかえって良くないのよ。ねえ、あなた。」と、背後の久保田警部補に言った。

 「そういうことです。」と久保田警部補はいい、あつこと手を繋いで入って来た。

 「見ました?大文字さん。」「記者会見?どこで見ていたんですか?」「会場。あれね、録画です。あの後、記者が暴れて、大変でした。」「テレビ局には生中継っぽくするように言ったのよ、私が。」

 2人の報告を聞いた、高遠がコーヒーを出して、4人ともリビングに移動した。

 「今度の使い魔は、週刊誌も読んでいるんですね。管理官の言った『悪意のリレー』を知っているんですね。」と、高遠が言うと、「前はもっと酷かったわ。第3走者がテレビだったから。」とあつこが言った。

 「ねえ、警視。物置殺人って何?」

 「義兄の馬場幸三郎って人は、しょっちゅう嫁の実家に口出しする人だったらしい。名前の通り三男でね、下がいないから、上に押さえつけられるばかりだった。それで、実の弟ように、何でも箕輪清吉さんを押さえつけたみたい。ある時、お義母さんの遺品を整理するために買った物置で一悶着あった。『そんな固定資産税がかかるもの買う位なら自分の荷物を処分しろ』って言われて、流石に清吉さんも怒った訳。それで、物置を整理している清吉さんの後ろから引き戸を閉めた。」

 「近所の人の証言も取れている。『そんなに物置が大事なら、物置と心中しろ』って幸三郎が怒鳴る声が聞こえた、と。出掛けると言って出掛けたが帰って来ない、と、わざわざ交番に捜索願いを出している。近所の人の異臭がするという報告を受けた警察官が調べたら、物置の中で椅子に座った死体が出てきた。奴は自殺だと言ったそうだよ。自殺する人間が外から鍵をかけるか?」

 「気になるから区役所で調べたの。固定資産税が付く場合と付かない場合があって・・・。」

 あつこは、スマホの写真を見せた。「このAタイプの場合は付いて、Bタイプは付かないの?違い、分かる?高遠さん。」

 「Aタイプは根っこから立って、Bタイプはブロックの上に置いてあるね。」

 「流石ね。清吉さんの物置はBタイプなの。簡単に言うと、Aタイプは基礎工事をしてコンクリ敷いてから建てるタイプ。Bタイプはブロック置いて組み立てるタイプ。いつでも撤去可能なの。馬場はテレビで中途半端に知識を得て、Aタイプの物置と決めつけていたのよ。清吉さんはホームセンターで確認した上で買ったけど、念の為区役所に行って確認したそうよ。それでも譲らなかったらしい。」

 「それで、事件か。幸三郎は、中から簡単に脱出できると思い込んでいたんだね。」

 「そうなの。事故で閉じ込められた場合の合鍵は、物置の奥の方にあったわ。清吉さんが忘れたか、身動き取れない条件があったかは知れないけど、締めちゃった時点でもう殺人よ。」

 「未必の故意、ってやつ?」と高遠が言うと、「流石、小説家ね。」と、あつこは応えた。

 3人の会話に割り込んで、「それで、週刊誌の記者は『シンキチ』って名前の人が殺された、EITOは何やっている、みたいに事情を知らないまま記事にしたっていうことか。それで、悪意のリレーか。」と久保田警部補が言った。

そして、「とにかく、また新しい闘いが始まる。」と、伝子は呟いた。

 「サポートなら幾らでも出来るから、言ってね、おねえさま。」と、あつこが応えた。

 「ベビーシッターが優秀だから、安心して日常運動も出来るのよ。あ、これ。松下君のお祝い。渡しといて。」

 「これは、善意のリレーだね、警視。」「そういうこと。」

 午後4時。警視庁にメールが届いた。

《決行日は明後日。今回は3件だ。サービスしておいてやる。時間は、追って報せる。》

 久保田管理官から届いた転送メールを読んで、伝子は呟いた。

 「何がサービスだよ。どこで何するか分からんぞ。学、来い!」

 「まだ夕食前だよ。」「それがどうした?明後日までまだ時間がある。」

 「ひえー。ご無体な!」と、高遠は悲鳴を上げた。

 その時、ひかるからLinenのテレビ電話が鳴った。

 高遠は、天の助け、とばかりに電話に出た。「高遠さん、大変だよう。」高遠はスピーカーをオンにした。

 「どうした、ひかる君。」「明後日の共通テスト受験するんだけど、田所申吉っていう同級生が怖いから受験見送るって言うんだ。」

 「心配ない。僕の家に正義の味方がいること、忘れた?」「忘れてない。だから、電話したんだ。大文字さん、守ってくれる?」と、ひかるは縋った。

 「勿論だ。ひかる君も申吉君も、他の受験生も守るさ。」

 Linenのテレビ電話が終ると、伝子はEITO用のPCを起動させた。

 「理事官。分かりました。決行日時が明後日の9時半。場所は三軒茶屋の大学です。何校あるか知りませんが。」伝子の報告に理事官は即答した。

 「分かった。よく読めたな。実は決行時間を9時半にするというメールが使い魔から届いたばかりだ。草薙。残業だ。」と、近くにいる草薙に命令し、「了解しました。」と草薙は応えた。

 午後7時。EITOのPCが起動した。草薙と理事官が画面に出てきた。

 「アンバサダー。三軒茶屋付近の大学は6つあります。大正女子大学、大日本大学、国技大学、サンプル大学、駒根大学、 東京大学 駒場キャンパスです。大学入試が狙われる、ということですか。東京大学以外は私立ですが、これらもターゲットに?」

 草薙の疑問に、「ええ。使い魔は余裕をかました言い方をしていました。メールの『3件』は、言葉にすれば、『さんけん』が普通ですが、『さんげん』とも読める。『さんげん』で、東京で一番有名なのは三軒茶屋。日にちが明後日なのは、共通テストの日だから。時間指定をしなかったのは、恐らく試験開始の時間が分からなかったから。開始時間は9時半ですが、8時半頃には受験生が門をくぐります。実際の決行準備は8時か8時半かも知れない。受験生には予め開始時間を遅らせる報せを手配願いますか。」と、理事官に言った。

 「願いますか?婉曲だが、君からの命令みたいだぞ。」と、理事官は皮肉を言った。

 「申し訳ありません。」「6つの大学で守るなんて前代未聞だ。腹案はあるのかね?」

 「あります。」「渡。今の大学の責任者に連絡して、朝イチに受験生宅に周知させるんだ。さあ、話を聞こうか。」

 午後11時。テレビ会議は長く続いた。画面が消えた。

 台所に戻ると、高遠がお茶漬けを用意していた。

 「明日は早いの?」「うん。」「子作りのエネルギーは明後日の決戦にとっておいてね。」「うん。学。」「何?」「愛している。」「知ってるよ。」

 翌日。午前9時半。EITOベースゼロ。会議室。

「という訳で、陸自空自全面バックアップで臨むことにした。今、陸自が臨時基地の設営をしているところだ。夕方、我々も移動する。では、班分けをアンバサダーから説明『願おう』か。」と、理事官は言った。

 「アンバサダーの突飛な案には毎回驚かされる。」と、夏目警視正は言った。

 「遠山も窪内も快く承諾したよ。理由は2つ。1つは那珂国マフィアが気に入らない。もう1つは、アンバサダーを気に入っているから。」

 「単純ですねえ、ヤクザって。」と、早乙女が言った。「ああ。そんなもんだよ、早乙女君。」

 「では、班分けをしてくれ。大文字君。あ。その前に。格闘の接近戦では、先日配布した、シールドを使ってくれ。少なくとも顔面を守れる。」

会議が終ったのは、午後5時だった。各自が「もしもの場合」の対処を提案し、検討したからだった。

 「では、解散。明日、現場で。寝坊しないようにな。」

  午後8時。伝子のマンション。高遠は伝子の背中を流すと、一緒に湯船に入った。

 「なあ、学。私が死んだらどうする?」「もう、お葬式あげたんじゃなかった?」 「バカ。」伝子は高遠を湯船の中に沈めた。

 翌日。午前8時頃。大正女子大学。福本と慶子が、受験生の父兄を装って、やって来た。

 慶子が、大学職員に尋ねる。職員は、受験番号ごとの教室割り当て表を掲示板に掲示して点検していた。

 「あのー。うちの子は、どこの教室かしら?」と慶子は職員に尋ねた。

 「まだ開始時間じゃないですよ。それに、受験中は教室に近寄れません。お子さんは一緒に来なかったんですか?」「サプライズで、終る頃に会おうと思って。」

慶子が職員と話している間、福本は怪しい男達が校庭に集まるのを確認した。

 その男達のリーダー格が話し始めるのを確認した福本は、黙ってDDバッジを押した。

 DDバッジとは、EITOに緊急信号を送るための通信装置だ。

 午前8時頃。大日本大学。掲示板を用意している職員を横目に、依田と蘭はキャンパス内を見学するような顔をして、巡回した。食堂に男達が武器を持って集まっているのを確認した依田は、蘭と顔を合わせて頷き、持っていたガラケーでEITOに連絡した。

 ガラケーは、伝子の叔父が開発したシステムを応用した、限られた周波数のもので、警視庁では緊急通信で使われている。理事官は、EITO用のものを開発させ、場合によって利用させている。

 「依田です。今、食堂に男達が集まって来ました。」「了解。男達が動き出したら、DDバッジを押して下さい。」と、相手が反応した。「了解です。」と言って、  依田は深呼吸をした。

 午前8時頃。国技大学。

 守衛に、「パンの配達です。」と、トラックから顔を出した物部が言った。

「聞いてます。食堂に運んで下さい。」と、守衛が言った。守衛は愛宕の変装だった。

 食堂の裏手に物部はトラックを駐車した。ドアが開いて、飯星、稲森、そして、伝子が出てきた。

 「3人だけで大丈夫なのか、大文字。」「後で、いかれたボーイズが救援に来るのさ。」

 「いかれたボーイズ?何だ、そりゃ。」「中に待避してくれ、物部。」「分かった。」

 伝子は物部と話し終えると、2人を連れて、古い校舎に向かった。創立以来の建造物で、無形文化財にすべきだという声が上がっていた。

中に人がいる。剣道の素振りをしているようだ。人の気配がして、3人が物陰に隠れると、2人の男が火種を出して着火しようとしている。

 「手伝おうか?」と伝子が声をかけると、男の一人が「何だ、お前ら!」と懐からダイナマイトを出そうとした。すかさず、飯星がフライングヘッドシザーズを男にかけた。

 伝子は、もう一人の男を一本背負いで投げた。

「隊長。変な臭いが。」「しまった!反対側に火を点けられた。」伝子はDDバッジ  を押し、反対側に回った。中で剣道着の女の子が逃げ惑っている。伝子はブーメランを窓の一つに投げ、中に転がり込んだ。

崩れてきた木が、伝子と女の子の前に立ち塞がった。

 午前8時頃。サンプル大学。

 腕章を付けた南原がカメラを首からぶら下げて、掲示板を設置している職員に挨拶をして、キャンパスを見て回った。

すると、テニスコートに集まる男の集団がいた。すかさず、南原はシャッターを押した。シャッター音に気づいた男が「何だ、お前!!」と、南原を追いかけてきた。

 午前8時頃。駒根大学。

 総子は、正門から少し離れた垣根から侵入した。完全に繋がっていなくて、切れ目があるので、『隠れ通路』として利用していることを天童が聞き込んでいた。

総子が頷くと、剣士隊の天童、矢田と松本が続き、弓矢隊の副島、田坂、安藤が続く。最後は、服部と山城が矢の入った箱を担いで続いた。

 午前8時頃。東京大学。元刑事の高峰圭二は、他の警備員と共に巡回していた。ここは、元々高峰の勤める会社の担当の職場だった。久保田管理官から、その会社に既に連絡が入っているので、作戦の障害にはならなかった。

 「やはり、来たな。」と、高峰の同僚は言った。「じゃ、手はず通り、門の近くで待機してくれ。」「了解。」同僚は去って行った。

 野球のグラウンドに集合している男達は武装していた。リーダーらしき男が説明を始めた。高峰はDDバッジを押した。

 午前8時頃。自衛隊中央病院内のEITO臨時支局。

理事官は、陸自の陸将に相談の上、どの大学にも駆けつけられる位置にある自衛隊中央病院に、EITOの臨時支局を設けた。プレハブのその施設は、表向きは病院の臨時処置室ということになっている。病院のヘリポートには、オスプレイが2機、待機している。

 支局には、EITOから、遠藤、菅沼、上島、鳩山、川辺、加護の6名がオペレーション担当として配置され、彼らの前にはそれぞれ、6つの大学の防犯カメラのシステムが繋がっている。指揮は陸将自ら執り、沖三曹がEITOとの連絡係を担当している。空将と海将もいる。

 午前8時10分。支局にEITOから通信が入った。

 沖がスピーカーに音声を出す。渡の声だ。「国技大学に火災発生!」

 「よし、MAITOの出動だ。頼む、前田。」と、陸将は前田空将を振り返って言った。

 「おーし、MAITO出動。国技大学に直行、消火弾をぶち込んで来い!」と、前田はインカムに向かって叫んだ。

 病院のヘリポート。オスプレイが発進した。

 午前8時10分。国技大学。

 漸く女の子を助け出した、伝子、飯星、稲森。敵の一団が銃や機関銃を向けて来た。

 そこへ、ホバーバイクが現れた。ホバーバイクには、変装した青山と筒井が乗っていた。運転する青山の後ろに乗った筒井が、その一団にこしょう弾を撃った。何度も撃たれるので、一団は中庭の方に逃げ出した。伝子達が追いつくと、彼らは落として来た銃の代わりに電磁警棒を取り出し、伝子達に襲って来た。

ホバーバイクからシューターが発射され、稲森は投げ縄や鞭を、伝子は五節棍を使い、飯星はプロレス技で闘い始めた。

 上空をMAITOのオスプレイが通り過ぎた。

 午前8時10分。東京大学。

 突然、咆哮と共に、集まっていた男達の周囲にネットを持った一団が現れて、あっと言う間にベースマットを基準とした、ネットが四方に建てられた。

ネットの檻が完成する直前に、変装した夏目警視正と、なぎさ、大町が入った。

リーダー格の男が叫んだ。「何の真似だ?」

 なぎさが叫び返した。「真似?真似が得意なのは、お前らの国じゃなかったのか?」

 「大した度胸だな、エマージェンシーガールズ。たった3人で俺たちと闘うのか?ネットの外の野郎達に助けて貰わないのか?」

 男はすぐに後悔することになった。空から、ワンダーウーマン軍団の空挺隊がパラシュートで降りて来たからだ。

 午前8時10分。サンプル大学。

 囮になった南原に引き寄せられた一団は、ずらりと並んだ白バイと、電動キックボードに乗った日向、馬越、早乙女に翻弄されることになった。武器は簡単に落とされ、格闘技戦に持ち込まれた。

 午前8時10分。大日本大学。

 依田がDDバッジを押すと、食堂の窓からドローンが次々と入って来て、男達は堪らず食堂の外に逃げた。すると、エマージェンシーガールズが待ち構えていた。結城、あかり、増田である。勇気達はヌンチャクを使い、次々と倒して行った。

 午前8時10分。大正女子大学。

 福本のDDバッジの合図に、EITO経由で、待機していた江南が警察犬の入ったトラックの入り口を開けて、犬たちに合図を送った。サチコ、ジュンコ、そして後輩の警察犬達は、火薬のにおいを追いかけて、銃を持った男達に急襲した。

みちるはトンファーで、金森はブーメランで敵に対峙した。

 午前8時10分。駒根大学。

 中庭の噴水近く。総子と天童達は、銃を持った大勢の敵に囲まれていた。

 どこからか、矢が飛んできた。校舎の一つのベランダから、副島、安藤、田坂が弓を射っていた。服部と山城は、頭を低くして、敵に見えない角度から、副島達に、どんどん矢を手渡ししていた。

 勢いに乗って、総子と天童達は、木刀で闘っていたが、人数が多く、苦戦し始めた。

 午前8時30分。とうとう矢が尽きた。

 そこへ、馬に乗って、男女がやって来た。女はエマージェンシーガールズ姿のあつこだった。あつこの前で手綱を握っているのは、変装した久保田警部補だった。

変装は、筒井、青山、夏目のものと同じ扮装だった。

 「待たせたわね。」と、あつこが言い、縦横無尽に操られた馬の上から。あつこはブーメランを投げて、敵を翻弄し始めた。

 校舎から降りて来た、副島、安藤、田坂も加勢に入った。

 午前9時半。EITO支局。

 大正女子大学担当の遠藤研一事務官が言った。「大正女子大学、戦闘終了!!」

 大日本大学担当の菅沼巡査部長が言った。「大日本大学、戦闘終了!!」

 国技大学担当の上島警部が言った。「国技大学、戦闘終了!!」

 サンプル大学担当の鳩山二曹が言った。「サンプル大学、戦闘終了!!」

 駒根大学担当の川辺通信事務官が言った。「駒根大学、戦闘終了!!」

 東京大学担当の加護准尉が言った。「東京大学、戦闘終了!!」

 陸将は叫んだ。「沖三曹、EITOに連絡。河野事務官に警官隊突入を要請!!」

 仁礼海将と前田空将が、橘陸将に握手を求めた。

 午前9時半EITOベースゼロ。

 河野事務官が連絡を続けている。枝山事務官が言った。「恐れ入りました、毎回言ってますけど、あの夫婦は凄いですね。推理力、洞察力といい、奇抜なアイディアといい。ところで、青山さん達の扮装は何です?」「エレガントボーイズ、と高遠君は名付けた。私は、あまり好みじゃないが。」理事官は唇をゆがめた。

 「私は賛成です。」と、草薙は言った。

 午前10時半。各大学の共通テストは繰り下げられて実行された。

 自衛隊中央病院内のEITO臨時支局は陸自の隊員によって、機材が運び出され、建物は解体された。およそ1時間で作業は完了した。設営にかかった時間の4分の1だ。

 正午。伝子のマンション。

 DDメンバーはEITOメンバーと共に集まっていた。寿司で『お疲れ会』をする為だ。

 「おねえさま、ごめんなさい。勝手に出撃して。」と、あつこが言って伝子に抱きついた。

 「おねえさま。」「おねえさま。」と、なぎさ、みちるも伝子に抱きついた。

 総子は「伝子ねえちゃん。」と、伝子に抱きついた。

 「アンバサダーって、『きょうだい』多いんですね。」と、新人の稲森が言った。

 「戸籍上でない、きょうだい、がね。」と、慶子が言い、皆が爆笑した。稲森を除いて。

―完―

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