第50話 圧勝……?

 この夏は本当に色んなことがあった。


 元々、陰キャ寄りだった俺にとって、この夏は革命だった。


 いや、革命はもう、春先に起きていた。


 憧れを失い、そして、彼女に出会ってから――


「やっぽ~い♪ なっちゅまちゅり~♪」


 テンション上げ上げなギャル子ちゃん。


 このリナちゃんが、俺のくすんだ青春模様を鮮やかに染めてくれたのだ。


 ちょっと、眩し過ぎて目を細めたくなる。


 今はもう、夜なのに。


「リナちゃん、あまりハシャいでケガしないようにね」


「平気、平気♪ それよりも、あたしの浴衣姿、どう?」


「いや、その……」


 ピンク色のそれは、俺の心を否応なしに弾ませる。


「……か、可愛いよ」


「本当に? うれちい♡」


 むぎゅっ、と。


 すごい、浴衣越しでも、この胸の破壊力は変わらない。


 ていうか、むしろマシマシになっているような……


「あ、バカップルだ~!」


 薄闇で声が響き渡る。


「あ、七野さん」


「よっ、加瀬ちん。いきなり、リナぱいとエロいことしちゃうの?」


「いやいや、しないから!」


「え~、そんなに否定しなくても良いじゃ~ん?」


 リナちゃんが舐めるような目を向けながら、指先で俺の胸をなぞる。


「ていうか、のぞみんたちも浴衣なんだね~」


「まあね~。リナぱい1人だけ、良いカッコはさせたくないからさ~」


「それ、どういう意味?」


「さあね~? 星宮ちゃんも、気合十分っしょ?」


「き、気合と言いますか……」


 水色の浴衣を着た彼女を見て俺は、


「星宮さん、その浴衣すがた、似合っていると思うよ」


「ほ、本当ですか?」


「ちょい、加瀬ちーん。あたしは?」


 黄色の浴衣を見せつける七野さん。


「うん、似合っているよ」


「まあ、素材が良いからね~」


「ふん、あたしよりおっぱい小さいくせに」


「それ以外はあたしの圧勝ですけど~? ねぇ、加瀬ちん?」


「えっと……」


「こら~! 他人の彼氏に色目を使うな~!」


「じゃあ、エロ脚を使っちゃう。リナぱいよりも、あたしの脚の方が色々と気持ち良いよ~?」


「へっ!?」


「このエロ娘が! 何が爽やかスポーツ系美少女だよ!」


「あ、あの、先輩方、落ち着いて下さい」


 周りの目も気にせず、ワーキャーと騒いでいた時――


「――ごめんなさい、遅れちゃったわ」


 宵闇に、黒い浴衣。


 本来なら、埋没しそうなのに……


 どうしてこうも、色鮮やかに、クッキリと浮かぶのだろうか?


 それはやはり、着ているのが……


「「「…………」」」


「みんな、どうしたの?」


「……ちっ、腹立つ女だわ、メイちゃんは」


「全く、同感……ってか、むしろ、こっちが申し訳ないわ」


「はぁ~……自信が」


「あの、本当にどうしたの?」


「ちくしょう~! おっぱいでは、あたしの圧勝だからな~!」


 もにゅっ。


「あんっ……ちょっ、リナちゃん、いきなり何を……」


「この貧乳め、貧乳め~!」


「や、やめて……最近、がんばって少し育ったんだから……あまりイジめないで?」


「そうだよ、リナぱい。感じ悪いぞ~?」


「って、のぞみんもさっきまでこっち側だったでしょうが!」


「ケ、ケンカはやめて下さい~」


 本当に騒がしくて……


 けど、パン、と芽衣ちゃんが手を打つと、シンと静まり返る。


「見た目も大事だけど、それ以上に大切なのは……振る舞いじゃない?」


「うっ……ふぅ~、あたちもう、疲れて歩けにゃ~い」


「それはただのワガママ娘じゃん。さすが、乳に栄養を全て持って行かれた女」


「う、うるちゃい!」


「仕方ないわよ、希望ちゃん。里菜ちゃんがこんな風に常時アタマお花畑ちゃんになったのは、昇太くんのせいだから」


「お、俺のせい?」


「本当に……罪な人なんだから」


 芽衣ちゃんが、ふっと俺に近寄り、そっと微笑む。


 さすがに、胸の高鳴りがヤバすぎた。


「って、この超美少女がぁ! あたちのショータにウワキッスしようとするな~!」


「そんなことしないわよ。するなら、コッソリ♡」


「誰かこいつの唇をもげ~!」


「てか、リナぱいの方がうるさすぎだから、お口もいだ方が良いっしょ?」


「ひ、ひどい……うわーん、ショータぁ~! みんながあたちをイジめる~! すごく巨乳だからってイジめるよ~!」


「よ、よしよし」


 あまり下手なことを言って余計にこじらせると面倒だから、とりあえず抱き付いて来たリナちゃんの背中をポンポンとしてあげる。


 そんな俺たちの様子を見て、七野さんはバカ笑いして、星宮さんは苦笑いして。


 芽衣ちゃんは……


「…………」


 やはり、誰よりも大人びて、微笑んでいた。




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