第51話 女の戦い

 ワイワイと、賑わう道中を歩いて行く。


「はぁ~、おまちゅりの雰囲気って、どうしてこんなに楽しいんだろうね~♪」


 終始ご機嫌な様子でリナちゃんが言う。


「本当にね~。あ、金魚すくいあるよ」


 七野さんがそちらを指差して言う。


「わぁ、可愛い」


 星宮さんが目を光らせる。


「よーし、せっかくだし、みんなで勝負しようよ~♪」


 リナちゃんが笑顔で言う。


「いいね~、勝負ごとは好きだよ、あたし」


 七野さんの目が燃える。


「き、緊張しちゃいます」


 星宮さんは、少し怯えた様子だ。


「良いわね。じゃあ、勝者にはご褒美をあげましょうか」


 ふと、芽衣ちゃんが提案する。


「おっ、メイちゃんもノリ気だね~♪ で、ご褒美って何にすんの?」


「そうねぇ~……」


 芽衣ちゃんは、きれいな唇に指を添わせつつ、


「……じゃあ、この後、昇太くんと2人きりでデート出来る権利は?」


「へっ?」


「「「はっ……?」」」


 1人、不敵に微笑む彼女以外、みんなしてポカンとした。


「って、おいおい、ちゃんメイ。あんた、人の彼氏を勝手に景品みたいにしないでくれる~?」


「あら、里菜ちゃん。もしかして、自信がないの?」


「な、何だと~?」


「落ち着け、リナぱい。これは明らかな挑発っすよ」


「いや、分かっている……けど」


 リナちゃんは、芽衣ちゃんを睨む。


 彼女は余裕の微笑みを崩さない。


「……分かった、受けて立つ」


「まあ、本当に?」


「うん、あたし、負けない。こんな胸がスッカスカの女に。人としての心が詰まっていないもん」


「里菜ちゃん、ひどいわ。その大きく実った果実、収穫しても良い?」


「きゃん、ショータ、怖いぃ~!」


 リナちゃんが俺に抱き付く。


「まあ、冗談はさておき……始めましょうか?」


「……分かったよ。やってやるんだからね」


 半ばベソをかきながら、リナちゃんはそちらに向かう。


「なーんか、面倒なバトルに巻き込まれちゃったなぁ~。まあ、ワンチャン、加瀬ちんとデート出来るから、参加しない手はないっしょ」


「で、ですね……ハッ、わ、わたしは別に、リナ先輩の彼氏である加瀬先輩を奪おうだなんて……」


「じゃあ、昇太くんは、見守っていてちょうだい?」


「えっと……了解です」


 そして、彼女たちは一斉にポイを構える。


「じゃあ、ポイが破れるまで、時間無制限……始め!」


 みんなして、真剣な顔つきでポイを水につけた。


「っしゃ、ゲットォ!」


「と、獲れた!」


 七野さんと星宮さんはまずまずの滑り出し。


「ほいッ、ほいッ」


 リナちゃんは、その2人以上に好調なスタートだ。


「リナぱいすっげ。デカ乳が邪魔にならないの?」


「えへへ、あたちのおっぱいに誘惑されて金魚くんたちが集まって来るんだ~♪」


「んなバカな。じゃあ、あたしも誘惑しようかな~?」


「わ、わたしは……」


 美少女が並んで金魚すくいをしている。


 しかも、何かちょっと、ハッスルして、ワンチャンちょいエロチックなポーズまでして。


「「「「「むっほっほぉ!」」」」」


 いつの間にか、周りはギャラリーがひしめいていた。


 にわかに騒がしくなって来た中で……


「…………」


 サッ、と。


 ほとんど音も立てず、水面をポイが駆け抜ける。


 金魚が数匹、ミニ桶に入った。


「な、何て鮮やかで……艶やか」


 何か、その道の、金魚すくい名人みたいな着流しの老人が目を見開いて言う。


 その視線の先にいるのは、芽衣ちゃんだ。


 彼女は、浴衣の袖をまくり、まるで玄人のような手つきで、金魚をすくって行く。


 彼女の美貌に、最初は鼻の下を伸ばしていた男どもも、いつの間にかその妙技に目を奪われて行った。


 かくいう俺もその1人である。


「にゃっ、にゃにぃ~!?」


 リナちゃんがめちゃくちゃ動揺していた。


「えー、佐伯ちゃんすっげ!」


「佐伯先輩、すごいです」


「って、感心している場合か~!」


 焦ったリナちゃんは、自分もより多くの金魚を捕獲しようと、ポイを深く潜らせる。


 けど、当然ながら、引き上げる際に水の重みが大量にのしかかり……


「あっ!?」


 ポイが破れてしまった。


「わっ」


「きゃっ」


 他の2人も同様に。


「どうやら、勝負ありね」


 1人、不敵に微笑む芽衣ちゃん。


 そのミニ桶には、他の3人とは比べ物にならない量の金魚がひしめいていた。


「あちゃ~、負けた~」


「残念です」


「ぐぎぎ……」


 三者三様の反応を見せる。


 一方、芽衣ちゃんは大量にゲットした金魚を、子供たちにプレゼントしていた。


「「「「「あの子、天女やん」」」」」


 エロ野郎どもは浄化されていた。


 何ていうか、芽衣ちゃん……


「……さてと、約束したわよね?」


 彼女不敵な笑みが、ほんのり柔らかくなって、俺を見つめる。


「昇太くん」


「あ、はい」


「行きましょう?」


 スッ、ときれいな白い手を差し出される。


「…………」


 俺はちらっと、リナちゃんに顔を向ける。


「……良いよ、約束だから」


 すごく不服そうな顔で言われた。


「ありがとう、里菜ちゃん。胸も器も大きいのね♪」


 芽衣ちゃんが最高の笑顔でそう言い放つと、リナちゃんのこめかみがプチ切れていた。


「ちくしょう~! 今宵はヤケ食いじゃ~!」


 涙ながらに走り去っていくリナちゃん。


「リナぱい、落ち着けって!」


「リナ先輩、待って下さい!」


 七野さんと星宮さんが後を追ってくれる。


 正直、俺も追いかけたかったけど……


「昇太くん」


 再び、しとやかな声に意識を引き寄せられる。


 彼女はニコッと柔らかに微笑むだけ。


 俺は小さく頷いて、彼女と共に歩き出した。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る