第47話 突然の……

 夏はまだまだ続いている。


 ギラギラと太陽が輝く中、わざわざ外に出るのはバカらしい。


 けど、俺はそんな太陽の下を歩いている。


「えへへ、久しぶりのショータとのデートだ♡」


「そうだね」


 何よりも、愛しい彼女とのデートタイムだから。


 ここの所、色々と訳あって、なかなかリナちゃんと2人きりで会うことが出来ていなかった。


 なぜか、リナちゃん以外の女子と2人きりになってしまって……


 も、もちろん、俺にそんなつもりはない。


 浮気なんて、する訳がない。


「うわ、今のギャル乳デケ~」


「しかも、超かわいいしな」


 学校内だけでなく、外に出てもリナちゃんは目立つ。


 だから、すれ違いざまに、そんな嫌らしい目線を向けられることは慣れっこだ。


 まあ、だからと言って、そんな良い気持ちはしないけど。


 幸いなことに、当人のリナちゃんは笑顔のまま、特に不快感をあらわにはしない。


 最近の女子は、ハラスメントに敏感で、なかなかに心が安らぐ時がないみたいだから。


「ねぇ、ショータ。あたしのお乳、また育ったよ」


「えっ?」


「ショータも、デカ◯ンくんだからって油断していると……その内、あたしのオッパイにすっぽり埋もれちゃうよ?」


 むしろ、常日頃から、僕がセクハラされている案件。


 いや、一向に構わないというか、むしろもっと……って、アホ。


「別に良いよ……その方が、落ち着くかもしれないし」


「この甘えん坊め♡」


「そうかな? でも、リナちゃんこそ……いや、何でもない」


「んっ、何かな~?」


「えっと……する時とか……すごく甘えて来るでしょ?」


 と、俺がささやかな抵抗をすると、彼女はますますニコッと笑う。


「だって~、ショータの体が理想の細マッチョだから~、リナはついつい甘えたくなっちゃうの~♡」


「そ、そっか……」


 うん、敵わない。


 この、エロかわギャルには、敵わない。


 そもそも、敵う必要もないだろうし。


 ピリリリリ!


 その時、着信音が鳴った。


「んっ、あたしだ」


 リナちゃんは谷間からスマホを取り出す(いや、何でだよ!?)


「あっ、店長だ」


「コンビニの?」


「うん。出ても良い?」


「どうぞ」


「ごめんね~……はい、もしもし」


 リナちゃんは、電話口でいくつか言葉を交わす。


「あ~、なるほど……でもぉ~……」


 チラッ、とリナちゃんが上目遣いにこちらを見て来た。


「どうしたの?」


「あのね、いま店長とゆかっちの2人でお店を回しているんだけど、店長が急用でどうしてもお店を離れなくちゃいけなくて。でも、これからお昼のピークタイムだから、ヘルプに来て欲しいって……もちろん、強制じゃないけど」


「あぁ~……リナちゃん、体力的には余裕あるの?」


「うん、そうだね。今日はこの後、ランチを食べて、早めにお家に行ってショータとしこたまエッチしまくる予定だったから。そのために、スタミナつけておいたし」


「へ、へぇ~……」


「ショータはどう? 今日、あたしとお預けになっても、爆発しない?」


「ま、まあ……最悪、自己処理すれば」


「そっかぁ……」


「残念だけど、困っている時はお互いさまだから……デートはまた、いつでも出来るし」


「うん、そうだね……じゃあ、あたし行くよ」


「気を付けて、無理しないでね」


「ショータ」


「んっ?」


 ちゅっ♡


「あっ……」


「エヘヘ、行って来ます♪」


 リナちゃんは笑顔を残して駆けて行った。


 俺はその愛らしい背中を見送りつつ……


「……さて、どうしたものか」


 リナちゃんとのデートが終了した以上、俺としてはこの炎天下をわざわざ出歩く理由がない。


 さすが、いくら見た目は陽キャっぽくなっても、中身は陰キャくん。


 家に帰って、またぞろクーラーを効かせた部屋でゲームをしようか。


 それとも、既に膨らみかけているコイツを発散させるとか……


「……あっ」


「んっ?」


 ふと、そばで声がして、顔を上げる。


 一瞬、誰か分からなかったけど……


「……篠原先生?」


「か、加瀬くん……?」


 お互いにひどく戸惑いつつ、名前を呼び合った。




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