第46話 まあまあエグい

「どうぞ、上がって~」


「お、お邪魔します」


 無事にリナちゃんからの許可を得て(?)、俺は七野さんのお家にやって来た。


「てか、マッサージの前に、シャワー浴びても良い?」


「ああ、うん」


「加瀬ちんもシャワー浴びなよ。何なら、一緒にどう?」


「そ、それは……色々とまずいので」


「へぇ~? ヤリ◯ンの加瀬ちんは、ちゃんと動揺するんだ」


「って、何で俺がヤリ◯ンなの? それは隼士でしょ」


「あいつはフラれ男じゃん(笑)」


「ひでぇ……」


「なーんて、冗談だよ。じゃあ、あたしの後にシャワー浴びなよ」


「そ、そうだね……汗くさいままお邪魔するのも、申し訳ないし。あ、でも着替えが……」


「あたしの服で良ければ、貸してあげるよ」


「いや、それは……申し訳ないし。ていうか、サイズが合わないかと……」


「ああ、大丈夫。正確には、未来の彼氏用に、買っておいた服だから」


「そ、そうなの?」


「うん、すっかり男日照りだから。妄想で楽しんじゃう、イタイ女なの」


「い、意外だなぁ」


「キモい?」


「いや……ぶっちゃけ、ちょっと萌える……可愛いかなって」


 俺こそついつい、気持ちの悪いことを言って、後悔する。


「あ、ごめん」


 けど、七野さんは、わずかに頬を赤く染めて、


「べ、別に良いけど……」


 と、そこまで嫌そうな反応を示さない。


「シャワー浴びて来るから」


「あ、はい」


「そうだ、これ麦茶どうぞ」


「ど、どうも」


「待っている間、シ◯っても良いよ?」


「いや、しないから!」


 俺が焦ってツッコむと、七野さんはまたいたずらな笑みを浮かべた。




      ◇




 俺もシャワーを済ませて、借りたTシャツと短パンをはき、階段を上る。


 『のぞみ』とプレートがある部屋をノックした。


「どうぞ~♪」


 ベッドの上でうつ伏せ状態で、足をパタつかせる七野さんがいた。


「ねえ、加瀬ちん」


「は、はい?」


「湯上りのあたしって、セ・ク・シー?」


「えっ……あ、はい」


「ぷっ……あれだけリナぱいを初め、いろんな女とエチハーレム状態のくせに、いつまでも童貞っぽさが抜けないんだねぇ~」


「そんな、俺は浮気者みたいに言わないでよ」


「だって、現にこの状況がそうじゃん?」


「いや、これは七野さんが……ただのマッサージだって……」


「あはは、もちろん。じゃあ、早速だけど揉んでもらおうかな」


「う、うん」


「この前は、肩オンリーだったから……今回は、全身を揉んでもらおうかな」


「えっと……背中からで良いかな?」


「おっ、やる気じゃん、かーせちん♪」


「ま、まあ。彼女がいつも、お世話になっている、大切な友人ということで」


「へぇ~?」


 七野さんは少し挑発的な流し目をして来る。


 俺はそれに心を乱されぬよう、


「じゃあ、始めます」


「お願いします」


 グッ、と親指を押し込む。


「あっ……初手からきもち~」


「そう? 良かった。痛かった、言ってね」


「うん」


 グリグリ、ゴリゴリ。


「おほほ……」


「七野さん、しなやかで良い筋肉をしているね」


「こら、セクハラだぞ~?」


「ご、ごめん」


「冗談だよ。ありがとう」


「あはは……でも、ちょっと疲れが溜まっているね」


「あぁ~、まあホワイト部活と言っても、何だかんだ一生懸命にトレーニングするからね~」


「まあ、良いことだと思うけど。やっぱり、その後のケアはちゃんとしないとね」


「じゃあ、やっぱり前にお願いしたように、加瀬ちんがあたしの専属マッサージ師になってよ」


「それは……」


「もちろん、エロいことも可♡」


「ぶふっ!」


「乳のデカさでは、リナぱいに及ばないけど……他のところは、あたしの圧勝でしょ?」


「あ、圧勝かどうかは……けど、当たり前だけど、リナちゃんとはカラダが違うね」


「と、言うと?」


「背中もそうだけど、この脚とか……引き締まり具合が……」


「むっ、女っぽくないって?」


「いや、ちゃんとスポーツ選手らしくありながらも……ちゃんと女性らしく、しなやかで……確かに、エロいかも」


「こら、ムッツリくん♡」


「ご、ごめん、調子に乗っちゃって」


「良いよ、もっと褒めて、あたしを乗せて? 加瀬ちんの上に」


「ど、どういうこと?」


「だって、リナぱいが言っていたもん。加瀬ちんとするキジョーなんちゃらが……」


「あっ! ここすっごく凝っているよ!」


 グリゴリリッ!


「あふうううぅ~ん!?」


「おっ、ここも! ここもだ~!」


 グリリッ、ゴリリッ、グリリリリンッ!


「ふひゃあああああああああああああぁん!?」


 そして、七野さんは果てた。


「……ハァ、ハァ」


「ご、ごめん。つい……」


「……あー、お付き合いしたい、加瀬ちんと」


「えっ……?」


「あ、間違えた。お突き合いしたいな」


「何を言っているの!?」


「あはは、冗談だよ~。友達の彼氏をNTRするとか、そんなゲスなことしないし。だってあたし、爽やかエロスポーツ美少女だから」


「爽やかでエロいって……」


「ちゃんと同居するよ?」


「……まあ、確かに」


「おっ、あたしの魅力が分かって来たかな~? じゃあ、次は表面を揉んじゃう?」


「そ、それは……またの機会に」


「いいね~、焦らしプレイ? 加瀬ちんも、何だかんだモテ男ムーブかますじゃん」


「そんなんじゃないから……ただ、これ以上はうっかり、俺が本当に浮気しそうで怖いから」


「マジで?」


「も、もちろん、心はずっと、リナちゃんにあるけど……とにかく、俺は辛い時にそばにいてくれた彼女を裏切りたくないんだ」


「…………分かった」


 七野さんは起き上がる。


「じゃあ、あたしはサードワイフで良いよ」


「はっ?」


「セカンドワイフは佐伯ちゃんでしょ?」


「いや、セカンドもサードもないから。2人とも、素敵な女子なんだか、ちゃんと自分だけのパートナーを見つけた方が良いよ」


「って、言われてもな~。じゃあ、それ見つかるまでは、加瀬ちんをオカズにしても良い?」


「そ、それは……えっ、もしかして、今までも?」


「さすがに、まだ大人のオモチャは買えないからさ~。リナぱいから聞いた話と、あの海でみたもっこり加減を思い出して……これくらいのお野菜かなって♪」


「生々し過ぎるわ!」


「冗談だよ。ていうか、お腹へらない?」


「ああ、そういえば」


「じゃあ、今から夏野菜カレー作ってあげるから」


「えっ、七野さん、料理できるの?」


「まあ、ちょっとはね。ちなみに、使うお野菜は、あたしが丹念に可愛がったそれだから」


「いや、それって……」


「ちょっと、引いた顔しないでよ。冗談だから」


「う、うん」


「てか、仕方ないんだよ。部活の仲間同士だと、もっとエグい話をしているから」


「……とりあえず、聞かないでおくね」


「ふふ、聞きたくなったら、いつでも教えてあげる。ただし、お代はちゃんともらうからね?」


「こ、怖いなぁ~」


「ひっひっひ」


 おどけたように笑う七野さんは、悔しいけど可愛いと思ってしまった。




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