第43話 小さきもの

 申し訳ないけど、男って大半が、巨乳好きだと思う。


 大きいか、小さいかで言ったら、だいたいが大きい方に目を奪われる。


 もちろん、恋愛において、それが全てではない。


 先ほど、俺が言ったように、小さいのが好きな男性だってちゃんといる。


 それに、星宮さんはとても可愛らしいから、そのままで良いのに。


 今こうして……


「……じゃあ、星宮さん。心の準備は良いですか?」


 後輩、年下相手だけど、つい敬語になってしまう。


 俺もやはり、緊張している。


「は、はい……お願いします」


 彼女は頷く


 いま、俺は彼女の背後に正座をしている。


 彼女もまた、正座で俺のことを待っている。


 正確には、俺のゴッハンを。


 そう、彼女はあくまでも、それ目当て。


 決して、俺のことが恋愛的な意味合いで、好きな訳ではない。


 あくまでも、女性として、もっと自分に自信を持ちたい、磨きをかけたい。


 その欲求から来ているのだ。


 俺に、胸を揉んでもらいたいという、この意志は。


「じゃあ……揉みます」


「はい……」


 俺はゴクリ、と息を呑む。


 もう、決して童貞ではない。


 何度も、彼女のリナちゃんの胸を揉んで来たのに。


 今の俺はどうしても、緊張してしまう、緊迫してしまう。


「……あっ」


「……おぉ」


 つい、感嘆かんたんの音が漏れてしまう。


 これが……星宮さんの……ちっぱい。


 正直、どこかでバカにしていた。


 胸はやっぱり、大きいに限る。


 小さい胸は、それはそれで、可愛いかもしれないけど。


 触り心地はイマイチというか、物足りないんだろうなって。


 けど、これは……


「ごめんなさい、揉み応えないですよね? リナ先輩のに比べたら……」


「いや、確かにボリューム感はないけど……でも、ちゃんと柔らかい」


「本当ですか?」


「うん、何ていうか……」


 ふにっ、ほにっ。


「あんっ」


「……これはこれで、たまらない」


「そ、そうですか?」


「うん……おっぱいって、みんな尊いんだなって、思わされる」


「や、やだ、先輩ってば……恥ずかしいです」


「ご、ごめん、変態みたいなこと言って……」


「いいえ……何かすごく……嬉しいです」


「そ、それは……良かったです」


「あの、もっと……揉んで下さい」


「りょ、了解です」


 ていうか、冷静に考えると、すごいよな。


 俺、この子の彼氏じゃないのに、こんな堂々とおっぱい揉んでいる。


 しかも、俺にはリナちゃんという、素晴らしい彼女がいるにも関わらず。


 あれ? 俺って、何かのラブコメの主人公でしたっけ?


「あの、加瀬先輩」


「な、何でしょう?」


「その……もう少しだけ、強くしても……良いですよ?」


 ……えっろ。


「わ、分かりました。では、もう少しだけ、強くしますね」


 もう、緊張のあまり俺、マジでお店のマッサージ師みたいな感じになっているし。


 ちょっと、マジでそのエロマンガみたいな展開はダメよ。


 あくまでも、この子のバストアップの願いを叶える。


 そのためだけに、この可愛いちっぱいを……


 もぎゅっ。


「あんッ!」


「ご、ごめん、痛かった?」


「いえ……続けて下さい」


「は、はい」


 モミッ、モミッ、モミッ。


「はっ、あぁん……加瀬先輩……本当にすごいです」


 だから、エロいってば~!


「よ、喜んでいただけて、何よりです」


 もう、マジでプロ意識を持って臨まないと、理性が持って行かれるううううううぅ!


「はぁ、はぁ……あぁ、気持ち良い……クラスのお友達に、何人か彼氏持ちの子がいるんですけど……んくッ……みんなこんなに、気持ちの良い思いをしていたのかな?」


「ははは……どうだろうね?」


「でも、こんな風に気持ち良いのは……加瀬先輩がお上手だからでしょうか?」


「いやいや、そんなことは……」


「……わたし、気になります」


「ほえッ?」


「だから、その……がんばって、彼氏を作ってみようと思います」


「マ、マジっすか?」


「はい。もし、それで、彼氏に揉んでもらって、あまり気持ちよくなれなかったら……やっぱり、加瀬先輩がすごいんだなって、分かりますね」


「そ、その時は……どうするの?」


「……じゃあ、加瀬先輩に、ご指導してもらいます」


「えっと、その彼氏くんにってこと?」


「はい」


「良かった、もし別れるなんて言ったら、どうしようかと思ったよ。俺の責任の度合いが……」


「わたし、そんなひどい女じゃありませんよ?」


「そ、そうだね、ごめん」


「ところで、加瀬先輩……わたし、そろそろ……」


「んっ?」


「こ、この感じって、もしかして……」


「えっ? あっ……」


 喋りながら揉んでいる内に、星宮さんの体がピクピクと、小刻みに震えていたようだ。


「ゆ、緩めようか?」


「い、いえ、出来ればこのまま……お願いします」


「……わ、分かりました」


 これはあくまでも、お客さんの希望。


 そう思わないと、理性を保てないです。


「もう少しだけ……強くするよ?」


「は、はい……ッ!」


 もにゅッ、もぎゅッ、むぎゅううううぅ!


「――ふあああああああああああああぁん!」


 星宮さんが天井に向かって思い切り声を張り上げた。


 そのカラダが、最高潮に震え上がる。


 不覚にも、その瞬間、俺も少しばかり、いや、かなり興奮してしまった。


 彼女以外の女子を昇らせた。


 男として、誇らしい、と。


 気持ちが高ぶってしまう。


 けれども、そんな興奮の中の幸福なんて、すぐに霧散する。


 直後に訪れるのは、やっぱり、やっちまった~……という、焦燥感。


 ま、まあ、彼女公認だけど……


「……この動画を見て、リナちゃん……何て言うかな?」


「あの、すみません……もし、わたしのワガママのせいで、お2人の関係が悪くなってしまったら……」


「いや、まあ……大丈夫だとは思うけど……」


 とか言いつつも、俺はおそるおそる、その動画を送った。


 果たして、どんな反応が返って来るのか……


 ピロン♪


「って、鬼はやッ」


 ずっと、スタンバっていたのかよって、レベルで。


『動画、拝見しました』


 しかも、普段使わない言葉遣いなのが怖い。


『ど、どうだった……?』


『……この浮気野郎が』


『いや、その……ご、ごめんなさい』


『……なーんて、冗談だよ』


『あれ、怒らないの?』


『まあ、あたしもオーケー出したことだし』


『良かった』


『でも、やっぱりそんな良い気はしないから……後で、あたしをゆかっち以上に、死ぬほど昇らせてね?』


『……かしこまりました』


『こら、何でそんな他人行儀なの?』


『いや、つい……』


『まあ、お疲れ。さすが、ショータのゴッハン♪』


『どうもです』


 と、リナちゃんとのやり取りもそこそこにして……


「あの、加瀬先輩。今日は、ありがとうございました」


「いや、まあ……星宮さん、良い彼氏が出来ると良いね」


「はい、がんばって見つけます」


 にこっと笑ってくれた。




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