第42話 コンプレックス

 少し前までは、女子の家にお邪魔するのを躊躇ちゅうちょしたし、緊張もした。


 けど、リナちゃんと付き合い始めてから、そんな風に肩に力が入ることは無くなっていたのだけど……


「……ここが、わたしのお家です」


「へ、へぇ……」


 いま、俺は久方ぶりに、心臓がバックバックしている。


 色々な意味で。


「あ、親とか……」


「両親ともにお仕事です」


「そ、そっか……」


 何だか、ますます心拍数が上がって来た。


 落ち着け、後輩の前で取り乱すな。


 その後、星宮さんのお家にお邪魔して、リビングに案内される。


「麦茶です」


「ありがとう」


 グラスに入ったそれを、グイと飲む。


「……あの、星宮さん」


「はい」


「その、さっき言ったことって……本気?」


「…………」


 彼女は無言のまま、コクリと頷く。


「何でまた……」


「リナ先輩に、聞いたんです」


「えっ、何を?」


「リナ先輩、元から巨乳だったけど、加瀬先輩に揉んでもらってから、ますます成長したって……加瀬先輩は、ゴッドハンドの持ち主だって」


「ま、まあ、何かそんな訳の分からない力が、あったり、なかったり……」


「わたし、ずっと胸が小さいのがコンプレックスで……いま、Aカップなんですけど……せめてBカップになりたいんです」


「あ、うん……」


「だから、その……加瀬先輩に揉んでもらいたいんです」


「……ちなみに、星宮さん。彼氏とかは……」


「いません」


「う~ん、やっぱりこういうことは、ちゃんと彼氏を作って、その人にやってもらった方が……」


「……ですよね。加瀬先輩も、好きでもない女子に、そんなことしたくないですよね」


「いや、そんなことは……」


「わたしなんて、リナ先輩に比べて、可愛くないし、スタイルも良くないし」


「星宮さん、もっと自分に自信を持った方が良いよ。確かに、俺にとってはリナちゃんが1番だけど。他の誰かにとっては、星宮さんが1番かもしれないよ?」


「……そうでしょうか?」


「そうそう。世の中には、胸が小さい女子の方が好きって男もいるし」


「……それもそうですね」


 星宮さんは、少しだけ口元に笑みを取り戻して、頷く。


 俺はホッと胸を撫で下ろした。


「じゃあ、この話は無かったことに……」


「……でも、それはそれとして……胸を揉んでもらいたいです」


「ぶふっ!」


 俺は飲みかけの麦茶を噴き出す。


「だ、大丈夫ですか?」


「ご、ごめん……あの、どうして?」


「いえ、その……やっぱり、サイズアップしたくて」


「そ、そうなんだ……」


 う~む、男がデカ◯ンに憧れるように。


 女子もまた、デカパイに憧れるのか。


 そのくせ、痩せたがりでもあるし。


 全くもって、難しい生き物だ。


 まあ、それはお互いさまかもしれないけど。


「……ちょっと、リナちゃんに電話しても良い?」


「あ、はい」


「前に、ハーレム公認みたいなこと言われたんだけどさ」


「そうなんですか?」


「でも、一応ちゃんと許可を取らないと……」


 俺はスマホを耳に当てる。


 プルルルル、と。


 スリーコールで、すぐに繋がった。


『もちもち、ダーリン?』


「あ、リナちゃん。いま、電話しても大丈夫?」


『うん、平気だよ。いま、トモエツとパフェ食べているの♪』


「そっか。あの、実はさ……」


 俺はことのあらましを、リナちゃんに伝えた。


『……なるほどね~』


 リナちゃんは、しばし沈黙した。


「あの、やっぱり、ダメ……だよね?」


『ちなみに、ショータはどうしたいの?』


「えっ、俺?」


『そっ。ゆかっちのおっぱい、揉みたいの?』


「それは……」


 俺は改めて、星宮さんを見る。


 失礼ながら、リナちゃんと比べると、だいぶ大人しい胸だ。


 けれども、そこから、そこはかとない、エロスを感じるのは気のせいだろうか?


「……ぶっちゃけ、ちょっと興味があります」


『この浮気者め』


「うぅ……ごめん」


『……なーんて、良いよ』


「えっ、マジで?」


『ただし、キスと本番は禁止。あくまでも、エクササイズとして、ね?』


「も、もちろんだよ」


『あと、出来れば動画も回しておいて。後でチェックするから』


「な、何か怖いな」


『大丈夫だよ、どこかのヤンデレ女と違って、あたちは寛容だから。胸もデカけりゃ、器もデカいってね』


『リナ、イチゴもらうよ~……うまっ』


『ざけんなあああああああああああぁ!』


『リナ、うっさい。これくらいのことで』


『うわああああああああああああぁん!』


 …………


『ひっぐ、うっぐ……ショータ、こっちの貧乳女どもが、あたちのこと妬んでいじめる』


『誰が貧乳だ』


『そこそこあるわ』


『うるさい! 追加のパフェ、あんたらのおごりね!』


『リ、リナちゃん、あの……』


『あ、ショータ、ごめんね。じゃあ、そういうことだから、ゆかっちにもよろしく』


『わ、分かった』


『あと、やるからには、ちゃんと大きくしてあげなよ?』


『そんな簡単には、大きくならないと思うけど』


『でも、あたちのおっぱい、ショータのせいで今もドンドン成長しているよ? このままだと、破裂しちゃうよ?』


『お互いに、自重しようか』


『いやだ♡』


 何てワガママな……


『じゃあ、バイバ~イ♡』


 ようやく、リナちゃんとの通話を終える。


「……あの、リナ先輩は、なんて?」


「ああ、うん……何か、オーケーだってさ」


「本当ですか?」


「まあ、あくまでも、エクササイズとしてなら……って」


「も、もちろん、そのつもりです。お願いします」


「あ、はい……こちらこそ」


 お互いに、正座して頭を下げ合った。




*前回の予告の内容は、次回に持ち越しです。




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