第32話 挑戦タイム
夜。
俺はリナちゃんと、メッセのやりとりをしていた。
『……という訳で、芽衣ちゃんと一緒に夏休みの宿題をすることになったんだ』
事後報告になってしまったけど。
俺はリナちゃんに伝える。
『そっか……でも、意外だね。優しいショータは、あたしのことを考えて、遠慮するかと思ったのに。いや、むしろ優しいから、かな?』
リナちゃんは俺に対して決して怒って責めることなく、穏やかに尋ねてくれる。
『いや、優しさというか……俺も、挑戦かなって』
『およ?』
『俺さ、本当にリナちゃんのことが好きなんだ』
『きゃんっ♡』
『でも、芽衣ちゃんは、前まで本当に好きだったから……そんな過去と、向き合うチャンスかなって』
『なるほど、そっか……うん、了解したよ』
『ありがとう、リナちゃん』
『じゃあ、もし浮気したら……あたしの乳で殺す♡』
『割と冗談で済まなそうだから、本気でがんばるよ』
『きゃはっ♡』
◇
来たる、夏休み。
7月の下旬は、8月に比べると、まだ夏真っ盛り、手前なイメージだけど。
すでに外では、ミーン、ミーン、とセミが鳴いている。
リビングでクーラーを効かせているけど、油断するとその熱気に飲まれてしまいそうだ。
それにしても……
「……芽衣ちゃん、遅いな」
俺は時計を見てソワソワしてしまう。
約束の時間を10分ほど過ぎている。
それくらいなら、普通に考えれば全然許容範囲なんだけど。
あのパーフェクト美少女、芽衣ちゃんが遅刻なんて、珍しいから。
というか、今日はこの暑い中、芽衣ちゃんの方が俺の家に来てくれることになっている。
もちろん、最初は俺の方が芽衣ちゃんのお家に行くよと言ったのだけど。
芽衣ちゃんは、大丈夫だよ、と言ってくれて。
でも、もしかしたら、大丈夫じゃないのかもしれない。
どこかで、倒れていたりとか……
ピンポーン。
そのチャイムに素早く反応した。
「は、はーい!」
俺は慌てて、インターホンに駆け寄る。
その画面には、日傘を差す美少女が映っていた。
通話ボタンを押す。
『め、芽衣ちゃん……』
『昇太くん、こんにちは。ごめんなさい、遅くなって』
『あ、いや、全然』
『ちょっと、ひと汗かいて来たから……はぁ、はぁ』
『えっ……』
確かに、呼吸を弾ませる彼女の声を聞き、ドキリとしてしまう。
俺は玄関ドアへと向かい、ゆっくりと開く。
もう、1度モニターでその姿を確認したはずなのに。
改めて間近にすると、その美少女っぷりが凄まじい。
白と青が入り混じったワンピースが鮮烈な印象を与えつつも。
柔らかなその笑みが、全てを優しく包み込む。
そして、その額と首筋には、汗が浮かんでいる。
ま、まあ、この暑さだし、当然なんだけど……
芽衣ちゃんの経験録を考えると、もしや……
「昇太くん?」
「あっ、ご、ごめん……ど、どうぞ、お入り下さい」
「お邪魔します」
芽衣ちゃんは日傘を閉じて入って来る。
「あ、飲み物……というか、タオルいる?」
「ありがとう。でも、大丈夫。ちゃんと、自前のがあるから」
「さ、さすがだね。でも、心配したよ。芽衣ちゃんが遅刻なんて、珍しいから」
「うん、ちょっと張り切り過ぎちゃって……」
「は、張り切り過ぎた……?」
ま、まさか、本当に俺が想像、妄想したような、エロい所業を為してから……
「あえて、1つ前のバス停で降りて、ウォーキングして来たの」
「……ウ、ウォーキング?」
「この服装だけどね。楽しかったわ」
「さ、さすがだね……」
俺は色々な意味で
「あと、飲み物も、とりあえずは大丈夫。それも自前のがあるから」
「へ、へぇ~。特製のドリンク的な?」
「ううん、常温の水よ。まあ、この暑さだから、ちょっとホットになっているけど」
「な、何ていうか……モデルさんみたいだね」
俺は全くもって、純粋な心持ちでそう言った。
けれども、メイちゃんはきょとんとし、直後に……
「うふっ……うふふふふ!」
「へっ?」
「あっ、ごめんなさい……里菜ちゃんも常日頃から自慢して来るけど……昇太くんって、本当に面白いわね」
「そ、そうかな? でも、芽衣ちゃんほどの美人さんなら、モデルさんでもおかしくないし……」
「ありがとう。昇太くんにそう言ってもらえて、すごく嬉しいわ」
「い、いやいや……あ、クーラーで冷やしてあるけど……温度とか、気にする?」
「大丈夫、羽織りモノで、温度調節するから」
「本当に抜かりがないね」
「もちろんよ。乙女はいつだって、戦っているんだから」
「な、何と?」
「それは秘密♪」
チャーミングな仕草で言われて、思わずクラッとしてしまう。
先日、リナちゃんに対して言ったこと、全くもって嘘ではない。
俺はリナちゃんのことが大好きだ。
けど、やはりこの超美少女さんは……
「さてと、昇太くん」
「あ、はい」
「夏休みの宿題、やるからには、ビシバシとやりましょう」
「ビ、ビシバシ……」
俺はたじろぐ。
『あーら、そんな簡単な問題も解けないの?』
『ご、ごめん、芽衣ちゃん』
『誰が芽衣ちゃんよ。芽衣さまと呼びなさい。あと、敬語』
『は、はいぃ~……』
……クソ情けないエロ妄想、乙。
いや、確かに俺は、どちらかと言えばMかもしれないけど。
そんな変態豚に成り下がるつもりはない……!
「分かったよ、芽衣ちゃん。俺、ちゃんと気合を入れて、ビシバシ宿題を終わらせるから」
「その意気よ、昇太くん♪」
何だか、芽衣ちゃんがすごく楽しそうなのが、逆にちょっと怖いけど……
こうして、色々な意味で、挑戦タイムが始まった。
*前回の予告の内容、次回になります (たぶん……)
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