第31話 もうすぐ夏ですね♪

 梅雨が上がり、夏を迎える。


「はぁ~、もうすぐ、楽しい、楽しい、夏休みだねぇ~、ショータ♡」


「うん、そうだね」


「今からもう、楽しみだなぁ~。この夏は、ショータといっぱい、いっぱい、思い出を作っちゃうんだから」


「はは、楽しみだなぁ」


「そうだ、あたち、セクシーな水着を買って、ビーチでショータを悩殺しちゃおうかな~?」


「え、えぇ? で、でも、ビーチでだなんて……周りの目が……」


「やだもう、ショータってば、嫉妬しちゃうのぉ?」


「し、嫉妬というか、心配で……リナちゃんは、可愛くて……スタイルが良いから」


「えへへ♡ あなただけの爆乳ギャル彼女です♡」


 笑顔のリナちゃんにくっつかれて、嬉しくも恥ずかしい気持ちだ。


 クラスの男子どもが『もげろ』と心の中で連呼しているのが聞こえてくるけど……


「舞浜さん、ちょっと」


「んっ? おお、マコちゃん。1学期もお勤めご苦労ちゃん♪」


「どの口が言っているのよ。だいたい、先生は夏休みなんて無いんだからね」


「えぇ、そうなの~? かわいちょうにね~」


「舞浜さん、あなたもよ」


「……はい?」


 リナちゃんが、目をパチクリとさせる。


「忘れたとは言わせないわよ……?」


 担任の篠原真琴しのはらまこと先生が、数枚の紙をバサッと見せつける。


「この前の期末……まっかっかの、赤点まつりね?」


「うん、ちょうなの~。今回はワケあって、中間の時みたいにメイちゃんティーチャーにお願いしなかったからさ~、テヘッ☆」


「舞浜さん、夏休み補習ね」


「……ねえ、ショータ。帰り、かき氷たべりゅ?」


「こら、現実逃避しないの」


 篠原先生に言われると、リナちゃんが涙目になる。


「だ、だって、せっかくの夏休みなのに……大好きなかれぴと過ごす……ひっく」


「ちょっ、泣くことないじゃない。それに、補習は1週間だけだから。8月からは、みんなと同じように夏休みを過ごせるわよ」


「本当に?」


「ええ。それに、補習の時に夏休みの宿題もついでにやってもらうから。そうしないと、あなたはきっと、夏休みの宿題が終わらないでしょうから」


「え~、ダル」


「一生補習する?」


「やだ~! アラサーで彼氏ナシやらみそのマコちゃんがいじめる~! あたしがおっぱいデカくて可愛いギャルでステキな彼氏がいるからって妬んじゃって~!」


「だ、誰がよ! そんな大きな声で言わないで!」


「ごめんなさいね~! 声も乳もデカくて! あと、尻もデカいから! ねぇ、ショータ?」


「う、うえぇ~!?」


「舞浜さん、いい加減にしなさい……!」


 篠原先生がワナワナと震え出したので、


「リ、リナちゃん。いい加減にしないと」


「ぶぅ~、だってぇ~……」


 ふて腐れるリナちゃんを、何とかなだめる。


「じゃあ、約束するよ。リナちゃんの補習が終わるまで、俺も遊ばないで、大人しく家で宿題しているから」


「本当に?」


「うん、本当だよ」


「えへへ♡ じゃあ、補習が終わったら、いっぱいラブラブしようね~♡」


 すっかり機嫌を取り戻したリナちゃんを見て、俺はホッと胸を撫で下ろす。


 篠原先生は、頭が痛そうにため息をこぼした。


「加瀬くん。このジャジャ馬さんの手綱たづな、ちゃんと握っておいてね」


「あ、あはは」


「もう、誰がジャジャ馬よ。あたしは牛でしょ? ボインボイ~ン♡」


「そんな風にふざけてばかりいると、補習が倍になるわよ?」


「うわーん! マコちゃんのパワハラ野郎ぉ~!」


「ちょっ、人聞きの悪いこと言わないでよぉ~!」


 結局、また騒がしくなった。




      ◇




 放課後。


 俺は久しぶりに、1人で下校していた。


 リナちゃんは早速、篠原先生に捕まって、ちょっと早めに補習がスタートしている。


 まあ、彼氏として、彼女にはちゃんと留年とかして欲しくないし。


 可哀想だけど、がんばってもらうしかないな。


「――昇太しょうたくん」


 その澄み切った声は、一瞬で誰かと分かる。


 振り向いた先には、絶世の美少女がいた。


 そう形容してしまうくらい、夏の青空を背景に、よく絵になっている。


「め、芽衣めいちゃん……」


 黒髪ロングの天使様は、髪を耳にかけて、ニコッと微笑む。


 本当に、歩く美少女だなぁ。


 いや、美少女だって人なんだから、歩くだろ。


 動揺のあまり、比喩ひゆ表現がおかしい……


「ごめんなさい、昇太くん」


「へっ?」


「里菜ちゃんのこと。あの子、私とはライバルだから、今回は自力で期末テストをがんばるって言ったけど……無理にでも、私が教えてあげるべきだったかしら」


「いや、そんな。芽衣ちゃんのせいじゃないから、気を落とさないで」


「そう? ありがとう」


 芽衣ちゃんは微笑む。


 俺は何となく照れくさくて、目線を逸らしてしまう。


「そうだ、昇太くん。7月の内は、昇太くんも宿題に励むって言ったわよね?」


「えっ? ああ、うん。その方が、8月に入ってリナちゃんといっぱい遊べるから、良いかなって」


「それはすごく良い考えね」


「ど、どうも」


 やはり、直視できない。


 目の前の天使様が、眩し過ぎて……


「1つ提案しても良いかしら?」


「え、何?」


「私もね、夏休みの宿題はいつも、7月の内に終わらせちゃうの」


「え、ぜんぶ?」


「そっ、日記と自由研究以外は。問題集とかね」


「さ、さすがだね。俺はそこまでは出来そうもないかなぁ。せいぜい、半分くらいかと……」


「じゃあ、一緒にやる?」


「へっ?」


「里菜ちゃんが補習の間、私と一緒に……夏休みの宿題、やっちゃう?」


 芽衣ちゃんは、変わらず美しい黒髪をかきあげて、変わらず優しい微笑みを浮かべている。


 けど、そこはかとなく、蠱惑的こわくてきな表情が見え隠れした。


 そうだ、この子はただの天使様じゃない。


 この若さで、酸いも甘みも噛み締めた。


 悪魔な一面も持ち合わせている。


 以前まで苦しんでいた、毒気はすっかり抜けたようだけど。


 何ていうか、これはもしや、とんでもない高みへと……


「……私とじゃ、嫌かしら?」


 芽衣ちゃんが、耳元で囁くように言う。


 俺は耳元がゾクゾクとした。


 ふと、通り過ぎる男子学生が、


「うわ、あの子クソ美人」


 なんて言う。


 そんな周りの評価が、また俺の興奮度合いを煽る。


「……い、良いよ」


「本当に?」


「うん……友達として、賢い芽衣ちゃんに頼っちゃおうかな」


 俺は内心で少々ビビりつつも、そう言った。


 芽衣ちゃんは、一瞬だけ、きょを突かれたように目を見開くけど……


「……うん、ありがとう」


 また、天使と悪魔が同居したような、蠱惑的で、魅惑的な微笑みを浮かべる。


 こうして、波乱の夏が幕を開けた。




次回予告


 昇太は芽衣と2人きりで、夏休みの宿題をする。


 あくまでも、マジメに、淡々と、していたのだけど……?


「そういえば、昇太くんのアレって、どれくらいのサイズなの?」


「へっ!?」


 浄化し、覚醒した絶対美少女が、純情な昇太を弄ぶ……?


「ねえ、一度くらい、浮気の味……知りたくない?」


 愛する彼女の里菜とは正反対の、かつての想い人、芽衣のしとやかなかつ、大胆なアプローチ……


 昇太の理性はもう、崩壊寸前?


「私ね、本当は……処女なの」


「はっ……?」


「まだ、奥の方が……でも、昇太くんのなら、届きそうだから……奪ってくれる?」


「えっ……ええええええぇ!?」


 夏休み開始早々、浮気でお陀仏だぶつ


 どうする、ラブコメ主人公!




 次回も、お楽しみに♪







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