第12話 満たされて、空っぽに……

 可愛い彼女が出来てすぐ、別れのピンチが訪れる。


 全く、俺ってやつは、いつからこんなラブコメ主人公になってしまったんだ。


 って、そんなのんきなことを言っている場合ではない。


 これから1週間以内に、男らしく決めなければ、リナちゃんと……グッバイ。


 そんなの、嫌だ。


 こんな冴えない俺が、あんな可愛い巨乳ギャルと付き合えるチャンスなんて、恐らく今後の人生でもう訪れない。


 つまり、ここでちゃんと決めなければ、俺の人生はオワリ、ということだ。


 まあ、元から半ば、終わっていた人生であって。


 もっと言うと、あの時、ずっと憧れていた清楚美少女を奪われた瞬間に、俺の人生は終了していて。


 でも、そんな俺のことを、リナちゃんが救ってくれた。


 だから、そんな彼女に、俺は心の底から惚れている。


 だから、失いたくない。


 絶対に。


「……ふぅむ」


 バッドエンドを想像し、落ち込んでいる暇はない。


 夜、俺は自室のベッド上にて、あぐらをかいて腕組みをし、考えていた。


 今日、リナちゃんと、初めてベッドの上で交わろうとした時。


 俺のムスコは、ちゃんといきり立っていた。


 有体に言えば、ビンビンだった。


 つまり、機能的には問題ない。


 また、メンタル的にも。


 ビビッて、入れる直前に立たないなんてことは無かった。


 ただし……リナちゃんは、言った。


 俺は優しすぎる、と。


 それもまた、メンタルの問題かもしれない。


 どうしても直さなければ日常生活を送れない、といった精神疾患ではないけど。


 その優しさ、裏を返せば気の弱さのせいで、俺は確かに……辛酸しんさんを舐めた。


 もう、あんな思いはしたくない。


「よし……俺は心を鬼にしよう」


 入れる瞬間、本当に痛そうにしていたリナちゃん。


 けど、申し訳ないけど……その痛みごと、彼女の膜をぶち抜く。


 そして、俺の新しい人生の幕が上がる。


 大好きな彼女と共に。


 胸の内で燃えたぎると、俺はスマホでメッセを送る。


『リナちゃん。俺、明日は必ず、男になるから』


 すると、数分後に返事が来る。


『期待しているよ♪』


 可愛い。


 もう、文字面だけで可愛い。


 俺はよほど、彼女に惚れているらしい。


 こんな素敵な彼女を、絶対に手放したくない。


「っしゃ。明日は絶対に、リナちゃんの処女を貫通するぞぉ!」


「ちょっと、昇太。夜にうるさいわよ」


「ひゃわわぁ!?」


 ……何だかんだ、女々しい俺だった。




      ◇




 学校にいる間、あまり授業に集中できなかった。


 俺の意識とチ◯コは、ずっとリナちゃんにばかり集中していた。


 彼女もまた、俺に意味ありげな視線を送りまくりで。


 そして、迎えた放課後――


「んっ、ちゅっ」


 しっかりと、下ごしらえをする。


 料理と一緒だ。


 意外にも、料理好きで料理上手なリナちゃんが教えてくれたことだ。


「ショータ、もうトロトロかも」


「よ、よし、じゃあ……」


「着けてあげようか?」


「いや……ここは、自分で着けるよ」


「うん」


 俺はしっかりと、ゴムを装着した。


 ふぅ~、と深呼吸をする。


「行くよ、リナちゃん」


「うん……来て」


 そして、俺は彼女と交わる――




      ◇




「……チーン」


「おーい、ショータ、大丈夫ぅ?」


「リナちゃん、俺のことをヘタレ野郎とののしってくれ……」


「とは言っても……ここはずっと、ビンビンのままだよ?」


「うぅ、カラダは元気でも、ココロは……情けない」


「何度も言うけど、ショータは優しいからさ。それはすごい魅力だし、武器だけど……」


「うん、分かっている。俺自身、ちゃんと変わらなくちゃって、思っているから」


「あまり焦らせたくないけど……ちょっと、荒療治の方が良いと思うからさ」


 リナちゃんは言う。


「早く、あたしの膜、ぶち抜いてね」


「……了解です」


 お互いに裸のまま、俺はひざ枕され、かつヨシヨシされたまま、頷いた。




      ◇




 その後も、放課後、俺と彼女の内緒のチャレンジは続く。


「はぁ、はぁ……ちくしょう、今日もダメかぁ~!」


「あん、もぅ……ショータ、がんばって♪」


 来る日も、


「さ、先っぽくらいは、押し込めたかな?」


「うん。ちょっと、メリメリって……来たかも♡」


 来る日も、


「あ、あと少し、あと少しなんだ……」


「そうだね……あと少しで、卒業だよ?」


 そして、とうとう……


「「…………あっ」」


 抱き締め合う。


 外側も、内側も、ぜんぶあったかくて。


 たっぷりと、満たされて行くようで。


 思わず、涙をこぼしてしまった。


「よく頑張ったね、ショータ」


「リナちゃんこそ……ありがとう」


 こうして、俺たちは本当に本当の意味で、カップルになれた。




      ◇




 もう、スッカスカだ。


 身も心も……なぜだろう?


 オレはもう、全てを手に入れたと思っていた。


 あの時、内心でずっと見下していたやつを蹴落とし、快感に浸った時。


 最高のオンナを手に入れた、あの瞬間に――


「……やっぱり、隼士しゅんじくんは粗チ◯で早漏だね」


 ベッドのふちに腰をかけて、彼女は言う。


 オレはすぐに反論したかったけど、散々と搾り取られたせいで、あおむけ状態のまま身動きが取れない。


「まあ、イケメンらしく、キスと愛撫あいぶは上手だけど」


 さらっと黒髪をかきあげる、この女は……


 オレが……あいつが……みんなが……思っているようなオンナじゃない。


 こいつと、初めてセッ◯スをした時。


『どうだ? 処女だけど、気持ち良かったか? でも、血は出なかったなぁ。ちょっと残念……』


『……まあ、前戯ぜんぎは上手だけど、本番はちょっとイマイチかな』


『……えっ?』


『ああ、ごめん。私、処女じゃないから』


『ま、またまたぁ~、冗談を……』


『本当だよ。経験人数、20人くらいだし』


『に、にじゅっ……』


『本当は、50人とか100人行きたいけど……まあ、さすがに女子高生でそれは、周りが引いちゃうからね』


『……お前』


『そうだ、隼士くん。私、もう1つ言わなくちゃいけないことがあるの』


 ずっと、清楚な天使だと思っていた。


 そんな女を汚す喜びを、噛み締める……と思っていたのに。


 もう既に、汚れきっていた、こいつは……


「……前にも言ったけど、私は加瀬かせくんのことが好きだから」


「……お前、意味が分からねえ。だったら、どうしてオレの告白を受けた?」


「だから、これも前に言ったでしょ? 私、加瀬くんとはお付き合いどうこうじゃなくて、あくまでも推しなの。アイドルみたいにね」


「それが、意味分からねえよ」


「分からないかな~? 彼、きっと私に好意があって。1年生の頃から、ちらちら見て来て、それがまた可愛いんだけどね、ふふ」


「お前……」


「でもね、人って難しいよね。可愛い人ほど、好きな人ほど……いじめたくなっちゃうの」


「……だから、オレを利用したってか?」


「うん、そうだよ」


 いけしゃあしゃあと言うこいつは、本当に……


「……悪魔かよ」


 そう言うと、この女は……佐伯芽衣さえきめいは、ニコリと笑う。


「うん、そうだね。私は悪魔」


「認めるのかよ」


「だから、私利私欲のために動くの」


 笑顔のまま、


「最近、さ。私の加瀬くんに近付く、メスビッチがいるでしょ?」


「メスビッチって……」


舞浜里菜まいはまりな


「……まあ、確かに。あいつもヤリまくりのビッチだろうけどさ」


「ううん、それはあくまでも噂であって。たぶん、あの子、純情なギャル子ちゃんだよ」


「はっ?」


「つまりは、処女……だけど、もしかしたら、もう……」


 その時、芽衣はベッドのシーツを力強く握り締めた。


「……私の知らぬところで、私の加瀬くんと、仲良くしちゃっているのかなぁ?」


「……だとしたら、どうなんだよ?」


 オレは内心でひどく恐れつつも、続きを聞いた。


「……どうするのが面白いと思う?」


 こちらに振り向く芽衣は、笑顔のまま。


 けど、その瞳が……濁って見えた。


「お前……犯罪行為にだけは、走るなよ」


「あら、優しい。忠告してくれるの?」


「だって、オレは……お前の彼氏だし」


「ふぅ~ん? てっきり、私がヤバい女だって分かって、別れると思ったのに」


「いや、まあ……何だかんだ、お前は最高の美少女だし……見た目は」


「まあ、ありがとう、と言っておきましょう」


 彼女はクスッと笑う。


「隼士くんって、粗チ◯だけど」


「それ言うな」


「何だかんだ、使え……優秀だと思うからさ」


「いま、使えるって……」


「ちょっと、手伝ってもらうかも」


「何を?」


「あの女を、排除するために」


 飛び切りの笑顔で言うこの女が、マジで怖い。


 けど、オレはもう……手遅れかもしれない。


 そんな彼女に、いつの間にか……心酔しかけている、自分がいた。







*下ごしらえ、完了。


 ここから、本番です。







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