第11話 初めてではない……はずなのに?

 冴えない男子とイケているギャルが付き合うなんて、そんなラブコメ漫画みたいな展開。


 誰が信じるだろうか?


 現に、当事者である俺自身も、全くもって自覚が持てない。


 本当に、俺はあの可愛くておまけに巨乳のギャル。


 舞浜里菜まいはまりなと付き合っているのだろうか?


 もしかしたら、今までの記憶は全部、夢かもしれない。


 ずっと好きだった清楚系美少女を友人だと思っていた奴に奪われて。


 そのショックで、白昼夢を見ているのかもしれない。


 未だに、ずっと……


 ピロン♪


 スマホが鳴る。


 俺はおもむろに、その画面を見た。


『おはよう、ダーリン♡』


 その熱々のメッセージ、送り主の名前は、舞浜里菜になっている。


 実際、同じ教室内にいる彼女に目をやると、いたずらな笑みを浮かべて手を振って来た。


『こら、返事は?』


『ご、ごめん。おはよう』


 俺は慌ててポチポチとする。


 また、彼女に目を向けると、なおも楽しそうに笑っている。


 さすが、恋愛強者。


 この状況も、すっかり楽しんでいる。


 俺なんて、人生で初めての彼女だから。


 しかも、その最初の相手が、S級ギャルとか……ヤバいだろ。


 ちなみに、舞浜さんの性格上、別に隠れてコソコソする必要はないと言う。


 けれども、やっぱり俺がまだ恥ずかしいなんて、女々しいことを言うと。


『まあ、ラブコメ漫画っぽくて、面白いか♪』


 なんて、同調してくれた。


 舞浜さん、ラブコメ読むのか。


 読むとしても、少女マンガかと思っていた。


 どちらにせよ、俺たちの関係は、まだみんなには内緒。


 さらに、昼休み。


「ショータ、いっぱい食べて、大きくなるんだぞ♡」


「って、俺は子供かよ」


「つべこべ言わない」


 彼女の愛情たっぷり弁当を、口いっぱいに放り込まれた。


 喉に詰まらせて死ぬかと思ったけど、それもまた本望かと錯覚してしまう。


 これが、恋の味……とても甘美だけど、同時に危険な毒薬かもしれない。


 みんな、恋をしている人たちは、既に感覚が麻痺っているのではないだろうか?


 まあ、俺もその1人な訳だけど……


「で、いつ卒業式する?」


「へっ?」


「いつ、あたしと、エッチする?」


「いや、それは……」


 俺は口ごもりつつも、


「……せっかく、ちゃんと両想いで、カップルになれたんだから」


「うん」


「そんな、カラダだけの関係になりたくないと言うか……」


「……ショータ」


「ごめん、意気地のない童貞野郎で……」


「ううん、そういう所が大好きだよ」


「ま、舞浜さん……」


「ていうか、名前で呼んでよ」


「あ、えっと……リ、リナちゃん」


「やだ、濡れる♡」


「へっ?」


「あ、ごめん。照れる♡」


 ……何だ、このクソ可愛いギャルは。


 ムクムク、と俺のムスコがおっ立ちそうだ。


 いやいや、落ち着け。


 今し方、自分で言ったばかりじゃないか。


 そんな、エロだけの関係にはなりたくないって。


 もちろん、エッチ行為が完全に不純だとは思っていない。


 ちゃんと、愛のあるエッチなら、最高だと思う。


 つまりは、きちんと段階を踏みたいのだ。


「リ、リナちゃん」


「んっ?」


「今度の休み……デートしない?」


「本当に? えへへ、ショータから誘ってくれるなんて、成長したねぇ」


「いや、これくらい……」


「じゃあ、当日も……リードしてくれる?」


「が、がんばります」


「そしたら、あたしはずっと、くっついているから。おっぱいずっと当てているから」


「そ、それは……適切な距離を保ってもらって」


「ぷはっ、ウケる~」


 リナちゃんのツボが、ちょっとよく分からないけど。


 とにかく、俺たちはちゃんとカップルらしく、まずデートすることになった。




      ◇




 リナちゃんとのデートは、初めてではない。


 でも、ちゃんとカップルになってからは、初めてのデート。


 しかも、今回は俺が彼氏らしく、男らしく、リードしなければならない。


 そう考えると、心臓のバクバクが止まらない。


 待ち合わせ時間の30分も前に来て、ずっと棒立ちしていた。


 過ぎ去る人たちが、俺のことを見て、クスクスと笑っている気がする。


 被害妄想かもしれないけど。


「あっ、ショータ♡」


 今日も今日とて、オシャレにイケているギャルファッションの彼女が、笑顔で俺に駆け寄って来た。


「リ、リナちゃん……」


「ごめんね、待った?」


「いや、時間ピッタリだし。俺の方が、早く来ちゃったから……」


「もう、気合十分じゃん。それなら、期待しちゃおうかな~?」


「プ、プレッシャーが……」


「がんばれ、男の子♪」


 リナちゃんの可愛い笑顔を見ていると、少しだけ勇気が湧く。


「う、うん」


 こうして、デートが始まった。




      ◇




「はぁ~、お腹いっぱい」


「ど、どうだった? スイーツバイキングは」


「もう、大満足♪ ショータ、女子の気持ちが分かっているね~」


「よ、良かった」


 俺はホッと、胸を撫で下ろす。


 女子は甘いモノが好き。


 その理屈がちゃんと通じて、本当に良かった。


 ていうか、リナちゃんって、食欲が旺盛だよな。


 だから、こんなに育って……


「……でも、まだ足りないなぁ」


「へっ? ま、まだ、何か食べたいの?」


 さすがに、これ以上は、いくらエネルギー消費が高い高校生でも……


「……まだ、お腹にスペースが空いています」


「えっと、小腹が空いている的な?」


「もう、ショータってば、にぶちん♡」


「ど、どういうこと?」


 戸惑う俺に、リナちゃんは小悪魔めいた笑みを浮かべて、ぐいと顔を寄せる。


「……エッチしたい」


 囁く声で言われて、ゾクゾクした。


 俺はまたしても、棒立ちしてしまう。


「いや、あの……まだ、俺には早いかな~って」


「当たって砕けろ♪」


 可愛い笑顔が、何だか鬼畜めいて見えた。


「今日も、うちのパパママはお出かけでいないの。気を利かせてくれたのかな~?」


「マ、マジですか……」


「てな訳で……覚悟は良い?」


「…………」


 俺は呆気に取られて、ロクに返事が出来ない。


 けど、それを肯定と取られたのか、リナちゃんにグイと腕組みをされたまま引っ張られる。


「あっ……」


 またしても、俺は女々しい。




      ◇




 思えば、これが俺のファーストキスだ。


「んっ、ちゅっ……はっ♡」


 リナちゃんの吐息の1つ1つが、めっちゃエロい。


 何だ、この良い匂いは。


 誰だよ、ギャルは臭そうって言ったやつは。


 最高だぞ、コレ……


「……ぷはぁ。ショータの唇、やっこっくて可愛いねぇ」


「リ、リナちゃんこそ……ぷるんてしていて……気持ち良いよ」


「ふふふ。ファーストキス、良い思い出になったかな?」


「……良すぎて、頭がおかしくなりそうだよ」


「全く、ショータってば……どこまで、あたしをゾクゾクさせるの?」


「リ、リナちゃんこそ……」


「じゃあ、お互いに息ピッタリってことで……」


 リナちゃんは、ちらっとテーブルの方に目をやる。


 そこには、きらんと輝く、例の箱があった。


 つまりは、ゴムさん。


「お遊び通り越して、いきなり本番装着だけど……良いよね?」


「お、俺、マジで初めてだから……優しくお願いします」


「ぷはっ……ショータって、本当に可愛すぎて」


「うぅ、ごめん……男のくせに、情けなくて」


「そんなことないよ。今日のデートも、ちゃんとリードしてくれて、惚れた♡」


「そ、そうかなぁ?」


「だから、自信を持ちなさい」


 ちゅっ、と頬にキスをされる。


 間近で見つめ合うと、ますますリナちゃんのことが、愛おしく思えた。


「わ、分かったよ。俺、童貞だけど……がんばるから」


「うん、ショータ。一緒にがんばろ」


 俺たちは、服を脱ぎ捨てると、お互いに抱き締め合った。




      ◇




 つい先ほどまでの意気込みはどこへやら……


「……ズーン」


 俺は分かりやすくへこんでいた。


 なぜなら……ちゃんとエッチ出来なかったから。


 男になれなかったから。


 つまりは……挿入できなかった。


 俺のムスコを、リナちゃんの……ナカに。


 ちくしょう、これが童貞の末路かよ……!


「リナちゃん、俺は……」


「……2つ理由があるよ」


「へっ?」


 ベッドの上で、吐息を弾ませる彼女が言う。


「今回、あたしらがエッチ出来なかった理由」


「えっと、俺が童貞だからでしょ?」


「いや、それは当たり前の前提だから、ノーカン」


「ズガーン」


「まず、1つ目は……ショータのそれが、思った以上に大きかったこと」


「へっ、そうなの?」


「自覚ないの?」


「いや、まあ、冴えない男の割には、ここだけはまあ、人並みかなって思っていたけど……」


「人並みどころか、馬並みでしょ」


「えっ、いやいや、さすがにそこまでは……」


「まあ、どちらにせよ、平均よりもビッグサイズだよ」


「……あ、あざーす」


 思わぬ事実を知って、俺は変な礼を言ってしまう。


「あ、それで、もう1つの理由は?」


「うん、まあ、それが1番の問題かもね」


「な、何だろう? また、俺に関すること?」


「ううん、これはあたしの問題だよ」


「リナちゃんの……それは一体……何だろうか?」


「うん、実はあたし……処女なんだ」


 沈黙が舞い降りた。


「……またまたぁ~! リナちゃんこそ、面白いギャグを言うよね~!」


「ギャグじゃなくて、ガチだよ」


「……嘘でしょ?」


「ホント」


「だ、だって、こんなに可愛くて、巨乳で、百戦錬磨のギャル子で……」


「まあ、可愛くて巨乳なのは事実だけど、百戦錬磨ってのは……みんなの妄想だから」


「そ、そうなの?」


「うん。実際は、ピュアガールというか……まあ、ちゃんと身持ちが堅いよ」


「身持ちが……堅い」


「つまりは、本当に惚れた男とじゃないと……エッチしないの」


「……マジで処女なの?」


「うん」


「じゃあ、何で非処女みたいなことを……」


「まあ、何ていうか……その方が、面白いかなって。童貞のショータをからかいたかったし」


「わ、悪い子だなぁ~」


 と言いつつ、俺は思わず、口元がニヤけてしまいそうになる。


 いやいや、俺はそんな、処女厨じゃない。


 例え非処女であっても、リナちゃんを愛すると誓っていた。


 けれども……


「……よっしゃああああああぁ!」


「ちょっ、ショータ?」


「あ、ごめん……つい、嬉しくて」


「ふぅ~ん? 結局は、ウブな子が好きなんだ?」


「い、いや、それは……」


「なーんて、冗談だよ」


「お、怒らないの?」


「もちろん。それよりも、ショータが喜んでくれて、あたしもホッとしたよ。今さら、処女カミングアウトしたら、ドン引きされるかと思ったから」


「いや、そんなこと……正直、リナちゃんが処女でメッチャ嬉しいけど……何だかんだ、そんなの関係なく……君のことが、好きだから」


「ショータ……」


 リナちゃんは、胸の前でキュッと手を握る。


「……あたしも、ショータが好き」


「あ、ありがとう」


「でも……今のままじゃ、ダメだ」


「えっ?」


「ショータの優しいところ、大好き。でも、それだと、いずれまた、辛い目に遭っちゃう」


 そう言われて、俺はあの死にたくなった瞬間がプレイバックしてしまう。


「そ、そうだね……」


「ショータ、さっき入れようとした時、あたしが痛がったら、やめたよね?」


「も、もちろんだよ」


「そのまま、貫けば良かったのに」


「いやいや、そんな……」


「決めた」


 彼女は言う。


「これから1週間以内にエッチ出来なかったら……あたし、ショータと別れる」


「……えっ?」







次回予告


 リナがまさかの処女だと発覚。


 思わぬサプライズに、歓喜するショータ。


 しかし、1週間以内に彼女の処女を奪わないと、別れると言う。


 気合を入れて臨むけど、童貞で何よりも心優しいショータには、荷が重くて……


 2人だけの、内緒のチャレンジが始まる!



*当たり前ですが、R18警告を受けるような表現はしません。


 ご了承ください。




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