第7話 不安な胸騒ぎ

 なにか、なぜか悔しい気持ちが拭えないままでいる。見なければいいんだ。客はあの男性だけではない。もっともっと幸せな空気で包まれているテーブルで和んで来ようとするけれど、できない。

 「ありがとうございました」

  それでもあちこちのテーブルをサービス、空いたテーブルを片付け終わった頃にふと男性を見た。

 パンケーキに手も付けていない!

 もう10分は経過してる。

 どうして食べないんだ? 冷めてしまうよ。冷めたらおいしくないよ。それでいいの?それとも商品になにか問題あり?

 僕はまたウォーターピッチャーを持って男性のテーブルへと向かう。そして手つかずのパンケーキを確認する。でも、問題はなに一つ見当たらない。

 お水はまだグラスに充分に残っていた。そのとき、男性がちらりと僕の顔を見た。訝しげなその表情は、お水はまだあるのに、なにをしに来たんだと言わんばかりに見える。

 この人、もしかしたら、お店のことや僕たちのこと、わかってる。そんな気がした僕は早々に背を向けた。

僕は北條さんを探した。

「北條さん、あのパンケーキの男性ってよくいらっしゃいますか?」

「え?いや、僕は知らない。でも、このお店は初めてではないことはアテンドしようとしたときにわかった」

「そうですか」

 にわかにあの男性に対して感じていた嫌悪感が胸騒ぎへと変わっていった。もし、本社からの偵察だったとしたらだとか、株主だったとしたらと憶測が不安を掻き立てる。そんな考えが浮かぶと男性の視線や行動が意味を持ち始める。

 そんな中、男性はもうホットな状態ではないパンケーキにナイフを入れた。そして一口食べた後にメープルシロップを全部かけた。そして手を挙げた。

 意外な行動に不意を突かれた僕はトレイもウォーターピッチャーも持たずにテーブルへと向かった。男性はまたPCを操作し始めていた。

「はい」

 なにか問題発生・・・か。

「シロップ、頂戴。ジャムの追加は有料だけどシロップは無料だね」

 その声は低く、感情はなく淡々としていた。視線はPCから外れない。

「・・・はい」

 やはりこの男性はこのお店を知っている。

「北條さん、やっぱりあの男性はこのお店でパンケーキ、食べてますよ。追加のジャムは有料だって知ってましたから」

 北條さんは男性の顔をちらっと見た後、少し興奮気味の僕に言った。

「それはメニューにも書いていることだから」

 恥ずかしかった。




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