第5話 サービスマンの苦悶

 右隣の席は20歳台のカップル。二人ともビール片手にチーズとフィッシュアンドチップス。

 左隣の席は40歳台のご夫婦と小学生の男子の3人家族。スパークリングワインのボトルがワインクーラーで横になっている。男子はフレッシュグレープフルーツジュース。ピザとシーフードのクリームソースパスタとミートソースドリア、鹿肉のステーキがにぎやかにテーブルに並んでいる。

 どちらのテーブルも見たところ、幸せな空気に包まれている。でも、それでいいんだ。本当の事情なんてサービスマンたちは知らなくてもいいし、仮に事情がわかったとしても、今の幸せを楽しんでいるなら、それを精一杯に感じて頂けるようにサービスするだけだ。

 ところがどうだ、テーブルに広げたPCを操作しているあの男性からは不釣り合いなどんよりとした空気が漂う。お水を一気に飲み干した。僕はウォーターピッチャーを持って男性へと向かうしかない。

「失礼します」

 サービスマンが近くに来たことを告げてから、空になったグラスを満たす。

 男性は僕を見る素振りもない。

「・・・」

 確かにね、パンケーキもメニューに載っているから注文するなとは言えない。

 でもさ、周りを見てご覧よ。どんな感じ?

 少し違和感を感じないか?

 いい歳こいた小太りの男一人がパンケーキを食べられる雰囲気か?

 「パンケーキ」はここまで市民権を得たのか!

 でもね、見てご覧よ。

 ここは、ワインやカクテル、ビールが飲みたくて集まるお店だってことはわかるでしょ。

 百歩譲って、パンケーキは良しとして、せめて飲み物は注文しようよ。お金の問題ではないとしたら無駄なものと考えているってことか。食事を楽しむことは人の特権なのに、どうしてそれを行使しない?

 サービスマンは悲しくなるんだよ・・。

 北條さんの言葉もあり、厄介なことは避けたいから僕はその男性が気になって気になって、グラスが空いたらすぐに注ぎに行くもんだから他の仕事に気持ちが入らない。

 男性はそんなサービスマンには目もくれない。



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