第4話 ホットケーキ

 この男性の次の行動を待っていては駄目で、早々に僕から仕掛けていかなければいけない。僕はゆっくりと歩いて男性のテーブルへと向かい横に立ったけれど、男性は僕に気が付かないのかスマートフォンから目を離さない。それでも声をかけずに男性が僕に気が付くまで横に立つことにしたが、スマートフォンの中で行われているシューティグゲームがひと段落するまでこの男性は僕に気が付かないのではないかと不安になる。

「ホットケーキ、頂戴」

 声をかけるべきかと迷いが生じたそのとき、男性が声を発した。

「え?」

「ホットケーキ。入口に置いてあるメニューに載ってたやつ」

「・・・はい」

「ホットケーキ、頂戴」

 そう、確かにホットケーキの世代だと思う。両親に連れられて行った梅田の駅地下街に大きな鉄板でホットケーキを目の前で焼いてくれるお店があった記憶がある。ここは「パンケーキ」であることを確認すべきか?でも入口のメニューにあるのは間違いなく「パンケーキ」だから、わざわざ確認して嫌味に感じられてつまらない会話が増えても困る。

「かしこまりました。お飲み物は如何いたしましょうか?」

「水でいい」

 それだけ言うと男性は椅子を引いて腰を降ろした。

「・・・はい、かしこまりました」

 如何なもんなんだ?

 このキラキラとした光景の中、50歳台の仕事に追われ疲れたサラリーマンを絵に描いたような男性が一人でパンケーキだぁ??? 家に帰っても誰かが温かい言葉でお迎えしてくれる画が想像できない。

「オーダー、なんだった?」

北條さんは僕に仕事を振った責任を感じているらしい。

「パンケーキでした」

「ドリンクは?」

「・・・水だけいいそうです」

 飲み物の注文はなぜ聞かなかったのかと質問されるかと冷や冷やする。

「そうか」

 北條さんはきっと「まぁいいか」という言葉を飲み込んだはずだ。

「・・・」

 僕は何も言えなかった。

「あの客はあまり干渉しないほうがいいな。わかった。ありがとう。ごめんな」

「はい」

「あ、でも気にはしておいて。厄介なことにはならないようにね」

「はい」

 そうだよね、サービスする我々が楽しい気持ちになれない客って、総じて面倒なことが起こる可能性が高い。










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