2.39
「お兄さん、こんな夜更けというか早朝に部屋を抜け出してどうしたのかしらね。このまま真っ直ぐ進んだら隣の県に抜けられますけど、お買い物でもなさるおつもり?」
「あ、あぁ。そうなのだ。実は枕が違うと眠れぬ質で……」
「嘘おっしゃい。逃げるつもりだったんでしょ。お土産用パックが欲しいなんて言うから怪しんでたけど、まさか本当に抜け出すなんて。このろくでなし」
いかん。やはり慣れぬ嘘は通じぬか。そもそもなにを普通に虚偽申告をしているのだ私は。罪に罪を重ねるなど恥知らずにも程がある。一度落ちた品格はもはや元に戻らぬという事か。きっとこれから先の人生は下賤な人間らしい言動が現れるのだろう。なんて駄目な人間に堕ちてしまったのだ私は。こんな風になったのも富士が私を昼太郎の店などに連れて行ったから……
やめよう。人のせいにするなどそれこそ下賤下衆な思想。全ては己が不注意、私自身が産んだ不始末。身から出た錆であり因果応報であ。ら。それだけは忘れてはならない。悪いのは私だ。責任の転嫁などしてはいけない。
……あ、こんな考えがまだできるのか私は。
なんだ。
なんだなんだ。善良なる発想ができるあたり、私は思ったより腐ってないではないか。鬼畜外道の卑劣漢に成り果てたと思っていたが、根は生粋の真人間のようだ。これも親の教育の賜物だろうか。母よ父よ、ありがとう。私はまだ人のようです。偉大なる情操教育に拍手。おかげで光が見えた。今一度照美と話し合いたい。
「照美よ、まぁ聞いてくれ。私は……」
「弁明なさるの。女々しく、子供のように」
酷い言い草だ。こいつ、完全に私を軽蔑している。仕方ないの事だが、ズドンと心臓にくる重みが思いの外堪える。
けれどもここは対話をしなければならない。それが照美のためであり、私のためだからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます