2.40
「確かに私の行いは非難されて当然。それを否定するわけにはいかない。だが、恥を承知で敢えて言わせてもらう。聞け、照美」
「言ってみなさいよ」
「まず、貴様に働いた痴漢行為。改めて謝罪する。すまなかった。そして、贖罪の機会を与えてくれたにも関わらず、このように脱走を企てた事も重ねて謝りたい。大変申し訳ない」
「謝ればいいってもんでもないでしょ。私が見つけなかったらお兄さん、そのままどっか行っちゃってたんでしょ? 婚約したのに。危うくいい恥晒しになるとこだったんだから」
「申し開きもできない。それについては罪の意識に苛まれながらも一生に関する内容であからつい魔が差してしまった。贖罪意識に駆られたまま生涯貴様の伴侶としての責務をまっとうできるか不安であったのと、罪人としてこの地に留まる事への恐怖があったのだ」
「情けない。結局責任が怖くなっただけって事じゃない」
「仰る通りだ。なんとも情けないと自分でも理解している。これまで罪など犯した事がないから、咎人としての宿命に背を向けて目を逸らそうとしてしまった。それで問題が解決するわけでもないのに」
「分かってるならこんな真似しなけりゃよかったのに。馬鹿みたい」
「本当に馬鹿をやらかした。陳謝し頭を下げるしかない。今思えば、早くに抱えている不安と恐怖を貴様に共有すべきであった。痴漢の罪を犯した罪人であるため物を言うのに躊躇があったが、籍を入れる以上はしっかりと報告連絡相談。所謂ほうれんそうの徹底を行い問題解決に向けて対処すべきであった。意識レベルでまず不誠実であった事を認めざるを得ない」
「ほんと、男って女に何も言わないんだから。それでこっちが怒ってからやっと謝るのよ。間抜けばっかり」
「今回の失態に関しては私個人の問題であるため性別に対する一元的な判断としないでいただきたいところだが、私の軽率な行いにより世の男性に対するイメージが悪化したのも事実であり、その点についても謝意を示したい。だが照美よ。ここまで聞いていただいたため理解いただけたと思うが、今回逃亡に至ったのは私の精神的未熟からくる不安と恐怖が増長した結果、逃避という選択肢を選んでしまったからだ。そこで、今更遅いかもしれんが言葉にして内心の惰弱を吐き出し緩和を試みたいと思う。照美よ。私は不安だ。知らない土地で知らない女と贖罪のために番となってしまうのが酷く恐ろしい。どうしたらいいだろうか」
「そんなもの、時が解決してくれるんだから我慢しなさい。だいたいお金稼げればいい話なんだから、まずはさっさと帰って寝て、明日からの仕事を頑張りなさいよ」
「承知した。それで、此度の処分は。私が犯した逃亡未遂への罰はどうする」
「三日間一品おかずなし」
「心得た。それでは部屋に戻らせてもらうぞ」
「もう逃げちゃ駄目よ」
「心は晴れた。二度と過ちは犯さん」
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