2.32
「それにしては昼太郎の奴、随分な物言いをしているぞ。仮にも好いた人間にあんな乱暴な言葉を吐くかね」
「そこはそれ。長年一緒にいたから照れも慣れもありましょう。照美ちゃんの前では子供になっちまうんですよ。ほら、いたでしょう。好きな女子生徒に意地悪をする男子が」
「あぁ。そういえば昔、重明くんが桜ちゃんに虫をぶん投げて虐めていたが、あれは求愛行為だったのか……解せぬな。何故そんな嫌われるようは真似をするのだ。好いているならILove Youと言ってやればいいではないか。桜ちゃん、いつも泣いていたぞ」
「何故も何も、そういうもんですからね。逆にダンナはなかったんですかいそういったご経験」
「ない」
「好きな子とかいらっしゃらなかったんで?」
「いなかったな。"愛だの恋だのは第六天魔王のまやかしに過ぎないから男児は文武に精進すべし"と教わってきたから、極力女は見ないようにしていた」
「薩摩武士みたいな生き方されていらっしゃったと。しかし、こいつは感情の問題でしょう。教育でどうにかなる問題じゃない。一度や二度、心がそわりときた時あったんじゃないですか」
「ふむ。流石に私も歳を重ねる内にそんな気持ちになった事がある。行きつけの弁当屋に片桐さんという方勤めていらっしゃるのだが、たまに唐揚げをおまけしてくれるのだ。そんな時、少し和らぐ」
「おぉ、いらっしゃるんですか。よかった。その片桐さんとやらはお幾つくらいの方なんでしょう」
「確か、今年で還暦」
「……」
「どうした、富士山
「ダンナ。それは単に腹が減っているから、唐揚げを貰えてラッキーと思っているだけですよ」
「失礼な奴だなお前は」
「じゃあ、唐揚げ増量サービスのない片桐さんを想像してみてください。和らぎますか? 心」
「……」
「……」
「……富士」
「どうしました? 和らぎましたか?」
「食べよう。冷める」
「あ、誤魔化しましたね!」
「うるさいな。だいたい、唐揚げは今関係ないではないか」
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