2.31

「ほら、三千円。釣りは結構。少ないが、煙草か珈琲でも買ってくれ」


「どうも」


「じゃあ、料理をもらっていくからな」


「どうぞ。遠慮なく」



 今度こそ許可を得たぞ。さぁ皿を掴んで卓へ運ぼう。一枚二枚三枚……皿屋敷みたいだな。ともかく計五枚の皿とお椀の運搬は完了した。後は座って箸を持ちいただくだけだ。




「食べ終わったら部屋の前に出しといてくれ。それじゃあ」


「あぁ、ありがとう」



 ……




 出て行った昼太郎。残されたのは俺と富士。さ、食べよう。食卓用アルミはくを取り外し内容確認。山菜に肉に煮物に煮凝り。それとフルーツか。いいじゃないか。腹は減らんが食べよう。命に感謝。




「……ダンナ、昼ちゃんなんですが、気付いていますか」



 箸の動きが中断。問われたからには答えねばなるまいが、質問の意図が分からんな。抽象的過ぎる。



「なんだ藪から棒に。気付く気付かない以前に俺は昼太郎について何も知らんのだから、明らかな体調不良でもなければ異変など察知しかねるぞ」


「照美ちゃんについてですよ」


「照美? なんだ昼太郎の事じゃなかったのか」


「あぁもう、なんでこんなに疎いんだが……いいですかダンナ。昼ちゃんと照美ちゃんはね。ずっと一緒にいたんですよ。それは分かりますか?」


「まぁ、こんな辺鄙な場所だ。出ていかなければ嫌でも顔を合わすだろう」


「歳も近いし、二人だけで過ごした時間もあったでしょう。私やダンナと違って、心の深い部分で分かり合う瞬間もあったと思います」


「うむ」


「そういう男と女がですねぇ。なんといいますか、惚れた腫れたを意識するってのは自然の摂理でして、ねぇ、分かるでしょう」



 もったいぶった言い方をするが、つまりはなにか。



「昼太郎と照美は互いに恋慕の情があるというのか」


「少なくとも昼ちゃんはそうでしょうね」



 

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