2.30
「なんでもいいけど、富士さんも兄さんもこれ以上妙な問題は起こさないでくれよ。小さな集落なんだ、騒ぎがあると面倒でしょうがない」
「あぁ、弁えてるよ。ともかくどうにかするさ。さ、ダンナ、早く飯にしましょうや。私は腹が減りましたよ」
「あぁ……」
なんだか富士の奴、昼太郎と関わらせないようにしているしているように感じる。私と昼太郎が話す事によって何か不都合があるのか。釈然としないが、後で伺おう。それよりまずは食事だ。せっかくの宿飯。冷えて台無しになってしまったら残念極まりないからな。
「では昼太郎。届けてもらった食事をいただくが、よろしいか」
「あぁ、食べてくれ」
許可は得た。おかもちから皿を拐って食卓へ並べれば晩餐が始まる。非日常で味わう未知の体験は暗く湿った感情を多少紛らわしてくれるだろう。罪人の分際で、罪過から逃げ出そうとしている分際でそんなものを期待するなどあってはならない事であるが、逃げようとしているというのはまだ逃げていないという状態であり事象が確定したわけではない。確定していないというのは未だ未定であり罪も罰も定まってないのだから無罪と同じである。照美の胸に触れた罪はあれど、前科一般程度あれば慎ましやかに密やかに小さな幸福に感謝をしながら楽しみを見つけ出しても咎められはしないだろう。無論これは私の自己判断だが、皆様には概ね同意いただけると思う。自問自答完了、さぁ、いただこうか。
「……」
掴まれる我が手首。掴むのは昼太郎の手。なんだ急に、あ、痛い。痛いぞ。なんだいきなり力を込めて握り込んでからに。
「痛いのだが」
「おっとすまんね。金をもらってないもんで」
「金。宿代に入っていると思ったが、照美からもらってないのか」
「ない
痛い。力を強めるな。
しかし金払いがまだなのであればこの行動も納得。無銭飲食防止のための当然の行使。むしろありがとう。罪を重ねずに済んだ。
「すまんね。金を払うから、離してくれんか」
「……」
「痛い。聞いているか。いや、聞こえているか?」
「……」
「あ、痛い痛い。昼太郎、痛い、痛いのだが」
「……」
「痛い。金、金を払いたい痛い。払いたい痛い金を」
「……あぁ、悪いね。呆けてた。金ね。二千五百。頼むよ」
「あぁ、払うとも」
ようやく離したか。まったく、手首が赤くなってしまった。心配なのは分かるが、用心のしすぎも困ったものだな。
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