2.29

 よいしょ。立ち上がり成功。最新OSが如き起動の素早さ。不安と罪悪感からは逃れられないが眠たみは一旦潰えた。この勢いのまま連続稼働を目指すべく、まず一歩、玄関へ。さぁさ、扉を開門。



「お待ちどう」



 閉門。突然現れた大男に意識が追いつず現実から目を背ける。



「なんだ失礼だな。せっかく飯を持ってきたのに閉める事ないだろ」



 扉が開かれ再度男が登場。思い出した。こいつは昼太郎。昼に寄った飯屋の倅だ。



「あぁ、すまん。突然現れたものだからびっくりした」


「びっくりしたのはこっちだよ。あんた、照美と結婚するんだってな」



 ぎくりとする。

 なぜお前が知っているのだという疑問と、恥も外聞も捨てたエスケープを企てているのが露見しやしないかという低俗な不安が私の胸を騒つかせたのだ。ここは慌ててはいけない。平素通りの様子を保とう。



「……まぁ、そんな話にはなった」


「あんたも物好きだねあんな女と。後で苦労するよ」


「そうかな」


「そうさ。俺は長い間ずっと一緒にいたんだ。あいつの器量の狭さは保証するぜ」



 ふむ。

 昼太郎の照美評は低いようだ。勝手知ったる仲故に悪態をついているという線も大いに考えられるが、第三者に美点を伝えるまでもないという関係性である事に変わりないわけである。


 そうだ。いっそ、この昼太郎に逃げるための協力を要請したらどうだろうか。覚悟を決める決めないの問題はあるが、逃走の成功率を上げておいて損はないはずだ。挑むは大事。憂慮を少しでも払うために、誘ってみるか。



「昼太郎、実はな……私は今夜……」


「いやぁ悪いね昼ちゃん。こんな事になっちまったけどさ。ま、私に任せときなさいよ。悪いようにはしないから、ね」




 なんだ富士め横から入ってきて。

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