2.26

「承伏しかねる。私に不義理な裏切りを働けというのか。犯した罪に目を背けながら!」


「罪。罪ですか。私はそう思いませんが、ダンナがそう仰るのであればそういう事にしておきましょう。それについてはもはや何も言いません」


「そうか。では、私が逃げず、罰の代わりに照美の言い分を呑む事を認めるのだな」


「いいえ、そうじゃございません」


「なんだ、なんなんたま貴様。どういう事だ。それでは辻褄が合わんぞ」


「私の見解ですと、そもそもダンナは罰を受ける必要がないのです」


「……よく分からんな。罪があると認めるのに、罰を受ける必要がないと言うのか」


「その通りでございます。一応お伺いいたしますがダンナ。ダンナは嘘についてはどういうご認識をお持ちでしょうか」


「……嘘も方便というからケースバイケースだろう。だが、明らかに悪意があったり、作為的なものであれば、それは断罪されるべきだろうな」


「なるほど。では、照美ちゃんが借金している事を隠してダンナに結婚を強要した件についてはどのようにお考えですか」


「それは……」


「ダンナ。配偶者が借金していた場合、自分にもその返済義務を負う可能性があるわけですよ。それを隠して結婚しろなんて、いくらダンナが悪いといっても少しばかり、いや、大分アンフェアじゃありませんかね」


「……」


「一つの罪によってもう一つの罪が帳消しになるとは言いませんが、罪人なら何をしてもいいってわけでもない。ダンナ、これはもう、どっちもどっちです。双方に非があり、双方に償うべき罪がある。しかし慈悲深いダンナの事だ。照美ちゃんに罰など与えたくはないでしょう」



「それはまぁ……


「であれば、これはもう全部なかった事にしちまいましょうよ。ダンナの痴漢行為も照美ちゃんの虚偽申請も全部なし。何も起きなかったって体で落着としましょうよ。ねぇ」


「……」



 富士の言にも一理ある気もするが、うぅん、逃亡か……左様な無責任が果たして社会的に許されるのか。判断に迷うところではある。

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