2.25
「そうと決まればダンナ。明日の朝は早いですぜ。今日は寝ましょう。酒飲んでる場合じゃありませんよ」
「待て。待て。話をさせろ。まず酒は貴様が持ってきたものだ。次に宿での労働についてだが……」
「お、やる気十分といったところですかい。さすがダンナ。気概と気骨がある。それじゃあ照美ちゃん。私らはもう寝るからね」
「あらそう。もうすぐご飯が届くけれど、どうしますか? 今日まではお客様扱いしてあげるけれど」
「じゃあ飯が来たら部屋の前に置いておいてくれないかい」
「ではそのようにいたします。どうぞごゆっくり〜」
……出て行った。わざとらしく接客言葉など使いおって。あいつは意地の悪いところがある。きっと満足に義務教育が受けられなかったからコミュニケーション方法が不完全なのだろう。大目に見てやる事にする。それよりもだ。
「おい富士」
「なんでございましょうか」
「なんだではない。私は宿での仕事など経験がないのだぞ。それをあんな安請け合いしてからに。幾ら照美に裁量があるとはいえ、軽々に決められても困る」
「あ、なんだ、そんな事でございますか」
そんな事だとこいつ。人の人生をなんだと……なんだ富士のやつ。邪悪な顔をしているが……
「ダンナ。もしかしてクソ真面目にいらっしゃいませいってらっしゃいませなんて接客業をやるつもりでございますか」
「何を言っているのだ」
「いいですかダンナ。ダンナはこんな田舎で死んでいい人間じゃない。もっと広い世界を見るべきですぜ」
「だから何を言っているのだ」
「逃げるんですよ。今夜、ここを発っちまうんです。それで海を目指してください。照美ちゃんには私からはよく言っておきますから」
なんと悪辣な提案! 悪人の発想! 私に罪を重ねろというのか!?
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