2.24

 付き合ってもらうからねと言われても私とてろくに遊んだ事がないのだから何をしていいのやらまったくもって見当つかんぞ。役者不足もいいところである。



「当面は部屋を空けておくんだろう? もうちょっと頑張ってみようよ」


「富士さん、気楽に言ってくれますけどね。もう料理人だって雇えないんですよ。だから昼ちゃんにわざわざ頼んでるの。お部屋の掃除やお出迎えお見送りお料理の上げ膳下げ膳なんかも一人でやって、これ以上はどうやったって無理。娼館なら別でしょうけどね」


「滅多な事言うもんじゃないよ。だいたいそんな言葉、旦那の教育上よくないから使わないでおくれ」


「おい富士。貴様、私を児童か何かと思っているんじゃあるまいな」


「あ、失礼。流石に飲む打つ買うくらいはご存知でしたか」


「当然だ。寅さんで観た」


「……さいですか」


「寅さんでも若大将でもなんでもいいけどね。どうするの富士さん。お金くれるの? それともお兄さんとの結婚を認めるの?」



 富士が認めようが認めまいが私の行動を縛る事はできないわけだがそれを指摘するとまた話の進展が阻害されそうであるためやめておく。もう腰が折れてややこしくなるのも疲れた。



「……妥協案でいこうか、照美ちゃん」


「妥協案?」


「そうさ。借金と籍入れ。両方一時保留にできる案があるんだ」


「あまり前向きな話じゃなさそうだけれど、一応聞いたげる」


「旦那と私がここで働くのさ。そうしたら客も取れるし、旦那も担保として置いておける。どうだい」


「……悪くはないけれど、務まるかしら。お兄さんと富士さんに」


「みくびらないでもらいたいよ。宿場の仕事なんざ朝飯前さ」



 いや待ってくれ。私の預かり知らぬところで話が進んでいくがさすがにそれは考えたい。働くのか? 私が? 宿場で? サービス業未経験にも関わらず良質なホスピタリティが求められる旅館業を? OJTなど期待できないのに?




「ダンナもそれでよござんすか」


「よくない」


「よごさんすね。よし、決まりだ。照美ちゃん。早速今日から世話になるよ」



 聞く耳を持て!

 こいつめ、はなから私の意見など無視するつもりだったな? 忌々しい。



「お給料なんて出ないわよ」


「いらないよそんなもの。じゃ、ダンナもそういう事になりやしたので、ご理解の程よろしくお願いしやすね」


「……」




 決まってしまった再就職。しかも無給。私の明日はどっちだ。

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