2.22
隠し事? 照美が? 快活なこの娘が何を黙るというのか。私にはてんで検討がつかん。
が、富士はそれなりに付き合いがあるらしいから、知る者ならば気が付ける機微を察したのだろう。半ば部外者である私が立ち入っても野次馬根性だと軽蔑されるだけ。黙って見守るのが吉。ひとまず成り行き任せである。
「話してごらんなさいよ。力になるから」
「……」
「ほら、黙ってないで。なんでもするから」
「きっと無理よ。言ってもなんにもならないんたわから」
「そんな事はないさ。ほら、言ってみなさい。なにかあるなら助けるから、ね?」
「本当? 本当に助けてくれる?」
「助けるとも。私が嘘を言った事があったかい」
「覚えてないわ。富士さんとお話していたのなんて、随分昔なんだもの」
「そりゃあそうだが……分かった。じゃあ、できないなんて言わないから。必ず助けるために動くから、聞かせてごらんよ」
「本当?」
「本当だとも」
「絶対?」
「絶対さ」
「お兄さんも、いい?」
「あ? あぁ。別に問題はない」
この問答、そもそもが私起因の事象であるから知らぬ顔などできないだろう。それに、ここまで焦らされたら、失礼ながら好奇心が騒ぐ。何があったか聞きたいところだ。
「じゃあ言うけれど、本当に大丈夫? 今ならまだ何も知らないままでいられるのだけれど」
「大丈夫だよ。ねぇダンナ」
「あぁ」
「それじゃ……」
一間置くかれ沈黙。さて、照美は何を言うのか。
「この旅館赤字続きで、このままだと潰れちゃうの。だから、三億円ちょうだい?」
「……なんだって?」
「三億円ちょうだい。私、この旅館潰したくないのよ」
「……」
こいつはたまげた。まさかの経営難。しかしそんな状況でどうして結婚など。これはさらに深く聞かねばなるまい。
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