2.20
「どうかなさって?」
「うわぁ!」
扉から突然現れた照美! このタイミングで照美! 私が狼藉を働いた女照美! あぁ照美照美!
「あぁ照美ちゃん。ご飯はいつ頃だい」
「もう少し待ってもらえるかしら。さっき、昼ちゃんに電話して頼んだから」
「昼ちゃんに? なんだいわざわざ。調理場に何かあったのかい」
「……そんなとこかな。ところで、何を騒いでいたの。他のお客様にご迷惑がかかるから、お静かにお願いしたいのだけれど」
「おっと、悪いね。ダンナが妙な事を言い出して」
妙な事とはなんだ。人生がかかった決断なのだぞ。
「妙な事? 妙な事ってなぁに」
「実はね……」
「おっと待て富士。これは私の口から言わねばならぬ事。すまぬが一旦口を閉じてくれ。
「分かりやした」
場は整った。幸にして照美は取り乱して騒いだりしないようだ。だがそれが表面だけ取り繕っているだけで、本当は深く深く傷付いているかもしれない。細心の注意を払いつつ心よりのお詫びを申し上げ、望まれる今後の展開をお伺いするとしよう。
「照美」
「なによぅ、改まって」
「この度、私が酔った勢いで貴様の胸に触った事、誠に申し訳ない。まずは謝罪させていただく」
「え、うん」
「これに伴い、私は即座に公僕へ出頭し罰を受け、自らの陰茎を切除しようと思った。それでもなお許されざる罪過である事は理解している故、許さぬというのであれば気の済むまま好きにしてくれて構わぬ。しかし、私が刑罰を受け自罰する事により貴様の良心が苛まれる可能性もあると富士より助言された。従って、被害を受けた貴様にこのような申し出をするのは卑劣極まりないと理解しているものの、私の今後について方針を決定してもらいたい。どのような内容であっても、甘んじて受ける」
「はぁ……」
なんだ気の抜けた返事だな。もしやこいつ、富士の言う通り本当になんでもないと思っているのか。それはそれで大丈夫なのか日本の貞操観念は。
「まぁ長々と仰っていましたが、不可抗力とはいえ胸を触っちまったんで反省しているって事らしいよ。照美ちゃん。申し訳ないが、許すと言ってやってくれ」
「おい富士。私は別に許しを乞いにきたわけではないぞ」
「まぁまぁ……照美ちゃん。早いとこ言ってやってくれ」
「富士」
「まぁまぁダンナ。ダンナまぁまぁ」
まぁまぁではない。あ、口をふさぎおったた。おのれこいつ。有無を言わさぬ気か。
「えっと、要は、お兄さんは私の胸を触ったから、お詫びになんでもするって言ってるらっしゃるの?」
「そ、その通りだ」
なんとか富士の手を払い除けたぞ! 今なら喋り放題言いたい放題だ! さぁ照美! なんなりと申し付けてみよ!
「だったら、一つお願い聞いてもらってよろしい?」
「当然だ。なんでも言ってくれ」
「それじゃあね。私と結婚してほしいの」
「分かった……うん、なんだって?」
「だから、私と結婚してほしいのよ」
結婚。結婚だと!? 何故だ! 意味が分からん! 何故自分を辱めた相手と! 理解不能! 理解不能だぞ照美!
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