2.19

「ちょっと触ったくらいですよダンナ。そう大袈裟にならずとも」


「ちょっとだからで済む問題ではない。世の中セクシャルハラスメントなどの性的搾取が大きな問題となっているのを知らないのか。加害者は一時の過ちという認識だから時間経過とともに記憶から薄れ下手をすれば笑い話なんかにする可能性すらあるが、一方で被害者は生涯自分が穢された事を忘れられず毎日辱めを受けた日のフラッシュバックに身体を震わせ怯えるのだ。怒りとも恐れともつかぬ圧倒的な負の感情になす術なく一人で耐え続けなければならないのだぞ。富士、貴様にこの苦しみが分かるか。いや、いい。答えずともよい。分からぬのだ。そして俺も分からない。これは女の苦痛であるから私達男が理解できるはずがない。だからこそ禊を済ませ罰を受けねばならない。そして罰の後も決して忘れぬよう自らの陰茎を切除。賠償を払いながら死ぬまで被害者に詫びて贖罪は完了する。私がしでかしたのはそれだけの大罪だ」


「ダンナはあれですか。所謂ツイフェミという存在でございますか」


「なんだそれは」


「あ、ご存知ない」


「知らん」


「……なんでそう極端な思想をしながらその手の界隈に疎いのか私にはさっぱり分かりませんが、まぁダンナなような事を言う女の人達がいらっしゃるんですよ」


「そうか。女性の権利獲得のための運動が盛なのだな。良い事だ」


「……」


「では、行って参る。切除した陰茎は貴様に送るから、猫にでも食わせてやってくれ」


「それは嫌がらせですかい」


「失敬だな。あ、しかし実際にそんなもの送られても困るか。すまんな。どうも視野が狭くなり配慮ができなかった。許せ。私の陰茎については檻の中で噛み切りそのまま自分の腹の中に入れるとしよう」


「ダンナ。ダンナのお気持ちはよく分かりました。馬鹿が付くほど真面目な方だ。私が言ってもお聞きにならないでしょう」


「当然だ。私は私の責任の元に動く。他者から何を言われようと、罪と罰から逃げるなど気が済まん」


「では、被害者の照美ちゃんが"止めて"と言ったら、どうですか」


「……なに?」


「照美ちゃんが"そんな事をするな。許す"と言えば、ダンナは極端な自罰行為に走りませんか」


「極端ではない。適切だ」


「どっちでもいいんですが、どうなんです?」


「それは……いや、駄目だ。被害者の優しさに甘えてはいかん。犯した罪は消えないのだからな」


「しかしダンナ。ダンナが一生を贖罪にあてるとして、もし照美ちゃんの良心が痛んだり申し訳ないと感じたならどうですか。もしかしたら、それが原因で病んでしまうかもしれませんよ」


「……」


「だからね。一旦照美ちゃんがどう思っているか聞いてからにしましょうよ。それからでも遅くないと思いますが」


「……」



 富士の言にも一理あるが、自分の罪過を軽くせんと動いていいものか。うぅむ、判断できん……

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