2.18

「落ち着きましたか」


「そうだな。幾らかましになった」



 水分不足の身体に一杯の水。生き返った気分だ。




「そいつはよかった。じゃ、二次会といきますか。酒はほら、この通り」


「それはまた次の機会に取っておこう。それより、私の意識がなかった間の事を教えてくれ」



 過去の経験から酒乱による不始末はないとは思うが記憶が飛んでいる。万が一しでかしていたらこれは大事。早急に迷惑を被った相手に謝罪をせねば生きてはおれん。何事もないといいが、何事あれば潔く頭を下げて然るべき補償も行おう。それが大人である。



「別段なんにもありゃしませんでしたよ。ただ……」


「ただ、なんだ」


「酔って倒れた拍子にダンナの手が照美ちゃんの胸に当たりまして、照美ちゃんがグラスをひっくり返してましたね」


「なんだと」


「ですから、倒れた拍子に軽く触れて、照美ちゃんが"キャッ"と驚いたんですよ」


「……」


「どうしやしたか、ダンナ」



 どうしたもこうしたもあるか。嫁入り前の女の胸に触れたなど、これは大変な狼藉、破廉恥極まる下衆の所業ではないか。不可抗力だと許容されても私の倫理道徳が良心を苛む。なんて事をした、大層な卑劣感。これで悪漢の仲間入りだとな! こうなれば、もはや……



「富士」


「あ、はい」


「私はとんでもない罪を犯した。これは許されるものではない。謹んで、公僕の元に出頭しようと思う」


「何を言ってるんですか。全然意味が分からないのですが」


「意識がないとはいえ女の身体にある女たる部分に触れたのだ。その罪、償わねばならぬ」


「……すみません、ちょっと笑えませんや」


「笑えぬのも当然だろう。どこに笑う要素がある」


「え、え、ちょっ待ってください。ダンナ、本気で警察に行こうとしてらっしゃるんですか」


「当然だ。短い間だったが世話になったな富士。これまでのひと時、豚小屋の中で思い返し懲役の慰めとしよう。手紙を書くから住所を教えてくれ」



 父よ母よ、すまぬ。犯した罪を償うため、私は法の裁きを受けに行く。許してくれとは言わぬがどうか、幸せに生きてほしい。

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