2.16
「吐いちゃいけませんよ、我慢して飲まないと」
「黙れ富士。迎え酒などアルコールの毒をアルコールで麻痺させるなどという不毛な対処療法。なんの解決にもならん。何よりアルコール依存症を誘発する危険な行為だ」
「そうは言いますが、ご気分優れないでしょう。あれだけ飲んだんだから」
「む……」
そう言われると確かにぐらつく私の道徳。この不快さ、耐え難い。どうする、節度を守るか、一時の悪事と軽んじ暴飲の大罪に手を染めるか。いや……
「酒はいらん私は水が欲しいのだ。水さえあれば二日酔いの症状も緩和する。富士、水のある場所を教えてくれ。水が飲みたい。水が」
「水。水ですか。水ならすぐそこにならあるじゃございませんか」
「なんだと」
見落としていたのか。私とした事が不覚である。で、どこに隠してあるのだ。
「ほら、こそ、蛇口を捻れば出てきますよ」
あ、水道の事か。こいつはうっかり……ではない。違う、そうではない。
「富士。私はミネラルウォーターが欲しいのだ。どこかに売っていないか」
「ミネラルウォーター。ダンナは水に金を払うんですか。この水資源大国日本で」
「そうとも。私はカルキで一括殺菌された水道水よりパッケージ毎に管理、洗浄されたポリエチレンテレフタレート詰めのミネラルウォーターを飲むのだ。その方が心理的抵抗がないからな」
水道水の安全性が高いなど百も承知。だが、外気に触れ続けた蛇口から出る水など怖くて飲めるものか。私は完全密封されたミネラルウォーターを飲むのだ。それがリスクヘッジ。大手飲料メーカーがセーフティを保証しているのだから恐れるものなど何もない。だから購買できる場所を教えるのだ! さもなければいい加減……
「……」
「ダンナ、どうなさいましたか」
「……」
ば、万事休す。まずいぞこれは、喋っていたら胃から酒が競り上がってきた。くそ、水、水さえあれば……
……
目に写る洗面台の蛇口。捻れば出てくる冷たいウォーター。
背に腹はかえられんか……
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