2.13

「昼太郎、照美ちゃんに飯渡してやりなよ」


「あぁそうだった。こいつ、食い意地が張ってやがってさ。毎回大盛りにしろってうるさいんだよ。ところで富士さん、久しぶりだね。前に会ったのは十年前くらいかい」


「そんなもんだね。それにしてもデカくなったもんだねぇ。昔からデカかったが、更にデカくなるとは」


「ジジイくさい事言わんでくれよ。大して変わってないったら」


「ジジイだよ私は。もう高い高いのお兄さんじゃないんだ」


「あ、やめろよそれ」


「なぁに高い高いのお兄さんって」


「昼ちゃんはな、私がここに来ると、しきりに高い高いをせがんできたんだよ。懐かしいね」


「だからやめなったらそれ」





 知らない身内話がどんどん進む疎外感。私はまるで案山子だ。まぁ構わないがな。わざわざ水を差す必要もない。ゆるりと時の流れに任せよう。



「あ、ダンナ、申し訳ないね。またこっちで喋っちまった」



 案山子に話しかけるな馬鹿。まったく三人で仲良くしていればいいのに。逆に申し訳なくなるぞ。あぁそうはいっても無視するわけにもいかないし、少し花咲かせてやるか。気苦労が絶えないな。



「私に気を遣わなくともよい。それより貴様、随分前からこの土地にきていたんだな」


「えぇ、私にとっては第二の故郷でございます」


「そうか。なら、なんでまた十年も帰郷しなかったのだ。すぐ近くなんだろう」


「……」


「……」



 ……なんだ、急に空気が重くなったぞ。もしかして、何かやってしまったか。



「私の事はいいじゃないですかダンナ。それより、酒が進んでないようですよ。ほら、飲んでください」


「あぁ……」



 ……飲むかこの不味いアトモスフィア、酒でも入れねば……



「あぁ!?」


「どうなさいやした、旦那」



 どうしたもこうしたもあるか! つい手にしてしまったこのグラス、照美が口にしたものではないか! あぁヘルペス! 歯周病! 口内環境の破壊者が押し寄せてくる! 助けてくれぃ!


「あ、もしかしたら、ビール以外をご所望で」


「あ、あぁ! そうだ! 酒! 酒だ! ウィスキーでもブランデーでもなんでも持ってこい!」


「さすが旦那、剛気だねぇ。昼太郎、ちょっと酒持ってきてやってくれや。グラスも代えてな」


「あいよ」



 よし、グラス交換は確約された。しかし、飲めるかな、そんなに……

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