2.12
「学も魅力もない女の貰い手なんていやしねーよ」
ずいと現れた大男。調理服に身を包み手にはどんぶり。低く迫力を感じる声に聞き覚えがある。先程厨房から聞こえたものと同じだ。つり、状況的に考えてこの大男が昼太郎であるという推測が立つ。
「失礼しちゃうわ。学はともかく魅力はあるんだから。毎回お客さんから"可愛いね"なんていわれてるんですからね」
「そら年寄り連中なんざ若けりゃいいのさ。奴ら、乳と尻の張りしか見てねぇんだから」
「まぁ」
昼太郎(推測)め酷い言い様だが、照美がニヤついて対応している辺り、これは信頼度の高さ故の暴言というやつなのだろう。私自身、楽し気に「死ね」だの「くたばれ」といったやり取りをしている連中を見た事がある。この二人も、そういった関係なのだろう。
「若い人だってちやほやしてくれるわよ。ね、お兄さん。私って美人でしょう」
私に聞くのかそんな事を。どうしようか。ここは昼太郎(推測)に倣って悪辣な評価を述べてやった方がいいのか。照美と出会って間もない私が。難題だ。
彼女の性格は明るく人懐きがいい。もしかしたら知らぬ間に友好的な関係となっている可能性もある。しかし私からしたらまたまだ途上。親密とは言い難い仲。いきなり「この不細工め」などと侮辱するには抵抗がある。そうだな。適当に話を合わせておこう。
「そう思う。美人だ」
客観的に見て美人という評価が正しいかは分からないが、私はまぁ不細工ではないと思う。少なくとも身体は非常に女性的で扇情を誘発する肉付きだろう。であれば、美人と評しても嘘にはなるまい。
「ほら見なさい。聞いた昼ちゃん。私、美人ですって」
昼ちゃんとはこの男の渾名か。ならば確定。こいつは昼太郎。昼太郎(推測)から昼太郎に認識変更だ。
「兄ちゃん、気を遣わなくたっていいんだぜ。こいつのお侠具合といったらないんだからな」
昼太郎も初対面でありながら遠慮なく喋る。私は人見知りなんだが、仕方がない。返事してやろう。
「そうなのか。しかし私は彼女について何も存じ上げないから、見てくれで判断するしかないんだ。姿だけならば随分女らしいだろう」
「なんだ、あんた変わってるな」
なんだと。
「そうなの。このお兄さん、少し変わってるのよ」
照美よ、お前もか。
どういう事だ。どうして私が初対面の二人から変人認定を受けるのだ。おかしいではないか。それともこれも文化的差異による価値観の乖離であろうか。そうだ、そうに違いない。うぅむ、世界は広いな。
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