2.11

「お兄さん面白いのね。ね、どこからいらっしゃったの」


「都の方からだ」


「あ、やっぱり。そんな感じがしたんだ。ね、やっぱり都って色々あるのかしら。私ってずっとここに住んでるじゃない。だから、憧れるんだ」


「少なくとも生きるのに困らなかったな。衣食住に困った経験はない」


「そうなんだ。ディスコとか行ったことおあり」


「なんだそれは。百貨店か」


「ダンナ。そりゃパルコですよ。それとね、今の時代ディスコなんて言わないよ照美ちゃん。クラブってんだ」


「そうなんだ。富士さんったら物知りね」


「なんたって照美ちゃんまでそうボケてるんだい。テレビは、インターネットは見ないのかい」


「それがすっかり忙しくって全然暇がないのよ。お父ちゃんが死んじゃってからずっと宿屋仕事にかかりきりで」


「死んだ。松城の親父が」


「そうよ」


「いつ」


「私が八つの頃だから、丁度十二年前ね」


「八つ頃から」


「そのあとお母ちゃんもすっかり塞ぎ込んじゃって廃人みたいなんだから、もうずっと私が仕切ってるのよ」


「杉代さんそんなんなっちまったのかい」


「そうよ。だから学校だってろくに行けてないんだから、義務教育なんて受けてないわよ、私」


「ははぁ。そりゃ、旅してる間にあえらい事になってしまったなぁ」


「そうでもないのよ。私、楽しいんだから。それに富士さんだって……」


「あ、あ、私の事はいいんだ照美ちゃん。それよりも、照美ちゃんが心配だよ。早く婿でもなんでも貰いなよ。心配だよ」


「富士さん、結婚してくれるのかしら」


「馬鹿いっちゃいけない。幾つ離れてると思ってんだい。


「歳の差なんて小さな問題じゃないかしら。愛があれば、ほら」


「勘弁してくれ」


「そう。なら、お兄さんでもいいけど、どうかしら。私と結婚なさいますか」



 勘弁してくれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る