2008 夏

今日は地区の子供会だ。

昼は桜城公園で流しそうめんをして、ビンゴや鬼ごっこなど事前に決めたレクリエーションをした。

夕飯はバーベキュー、そして肝試しがあり、花火をして解散だった。


いつも通り、俺と勇志と穂乃の幼なじみ3人は行動を共にしていた。

親がバーベキューの準備をしている間、低学年は自由時間だった。

俺と勇志はトイレに行った後、穂乃と共にかくれんぼをしようと決めていた。

公園は広い、昔から飽きるほどここで遊んでいるのでたくさんの隠れスポットを知っていた。

だからかくれんぼにも飽きが来なかった。


トイレから出て、穂乃を探したが見当たらなかった。

俺は母に、勇志も両親に穂乃を知らないか聞いたが知らないと答えられた。

「穂乃さ、もう隠れてるんじゃない」

勇志が面倒くさそうにそう言った。

「確かに、ルールやぶりだけどね」

穂乃がルールをやぶったなら、こちらも奥の手を使うだけ、そう考え2人は穂乃の両親の元へと向かった。

穂乃はどこに隠れているか聞くためだ。


穂乃の両親は公園の少し離れた場所にいた。そして、他の親や地区の区長などに取り囲まれていた。

近づくとこんな会話が聞こえた。

「ちょうど今日でしたな、ひかりさんが行方不明になられたのは」

「お兄さんも大変だったでしょ。早く見つかるといいですね」

穂乃の父がひかりという人のお兄さんなのだろうか、行方不明?よく分からなかった。


話がひと段落したようなので、勇志が穂乃の母親の袖を引き「穂乃はどこにかくれてる?」と聞いた。

「たぶん、事務所があるほうよ」

「ありがとう!」

俺たちは恐らくあの隠れスポットだろうと見当をつけ、まっしぐらに走った。


穂乃は簡単に見つけることができ、何度かかくれんぼを楽しんでいるとバーベキューの準備が整い、夕飯となった。


その後の肝試しは3人1組で公園を1周するというものだった。

チームは本来なら、高学年と低学年を混ぜて行くのだが、勇志が見栄を張り幼なじみ3人で行くことになった。

そのくせ1番怖がっていたのは勇志で、俺の手を握り震えていた。

半分を過ぎたくらいだろうか、フクロウらしき声が響き渡り、驚いた穂乃が泣いてしまった。

俺も恐怖に負けそうだったが、穂乃にも手を握られて、勇気を振り絞り2人の手を引いて歩いた。

1周を終えて親の顔が見える頃には俺たち3人とも涙をボロボロこぼしていた。


さて、気を取り直して花火が始まった。

確か8時頃だったと思う。

手持ち花火を一通り終えると、大人が打ち上げ花火を準備しだした。

それぞれが見やすい場所に移動する。

俺たち3人はソメイヨシノという桜が多く植えられているところに移動した。そこにベンチがあるのだ。

座る順は俺、勇志、穂乃。この頃は地元の野球クラブに入っていた勇志が俺たちよりも体格がよく、真ん中が似合っていた。


「そろそろかな」

俺は打ち上げ花火が好きだった。待ちきれず、2人に声をかけた。

「あれ見て!」

穂乃が近くのソメイヨシノを指さして言った。

「花が咲いてる、桜の」

穂乃が指さす方向に桜が咲いているのだ。しかも、ひと枝だけ。

「すげー、寝坊したのかな」

勇志がまじまじと眺めながら言った。

その時、パンッという音と共に空にも花が咲いた。

打ち上げ花火が始まったのだ。

季節外れの桜と打ち上げ花火のコラボは綺麗だった。

隣で穂乃がつぶやくのが聞こえた。

「おばさんが私の事を見てるのかも」

その時はなんのことか分からなかった。

5分にも満たない打ち上げ花火が終わる時には、ソメイヨシノの花はもう咲いていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る