第8話 地母神と生命
創造神と五属性の神。
この宇宙を司る大黒柱と五つの柱。
エネルギーは計り知れない。
ふとした瞬間に新しい神が生まれることもある。
こんな感じでこれからも五大神の属性の掛け合いで新しい神が生まれるだろう。
「じゃあ、生命の誕生もいけそうだな。そして——」
人間が誕生することで、さらに神が生まれる。
誰がどう管理するかを決めなければならない。
唯一神として全てを一人でやる、なんてことも頑張ればできる。
「ただ、俺一人だとどうしても出来ないことだってある。諸々の神、もしくは天使たちが絶対に必要なんだ。」
面倒くさいからという理由もあるが、それ自体は些末な問題だ。
もっと重要なことがある。
その一つが時間感覚と距離感覚だ。
リデンはこの宇宙の誕生から滅びまでを司る。
一にして全の存在。
空間は即ち、その通りであり、時間もそれに当てはまる。
だから気を抜けばあっという間に時が流れる。
集中すれば時が止まったかのような感覚になることもある。
だが、そもそも基準が分からない。
時間の概念がないのだから、当然そうなる。
では、新たに生まれた神々はどうか。
知識はあれど、生まれたばかりだ。
もちろん創造神に次ぐ力を持っているので、彼らも時の流れなど理解できないだろう。
でもこの宇宙の全てのシステムが頭に入っているリデンほどではない。
だから彼らに仕事を任せ、そして彼らの動きを見ることで、漸くリデンも時間や距離感覚が分かる。
だとしてもまだ人間の感覚には程遠いだろう。
これから先はレイザームのような孫世代、そして眷属と段階を落とす必要がある。
そうでなければ、とても人間の声を聞くことはできない。
「あ、じゃあ、僕の家来の頭も撫でてもらっていいですか? あの……、一応なんていうか、その……、縁起物なんで。」
エステリアがレイザームを連れてリデンの前にいそいそと歩いてきた。
そういえばそんな習慣があった。
雷魔法はすでに所有しているのだから、触る必要はないのだが、娘の頼み、そして孫のためとあらば主も悪い気はしない。
主は少し静電気が走るんじゃないかと一瞬だけ躊躇った後、跪くレイザームの頭をゆっくりと撫でた。
実際は高圧電流が流れているのだから、人間が触れば即死する。
彼の神はプラズマそのもの、そもそも近づくことさえもできない。
だが、神にはそれも分からない。
なんか面白いくらいに毛が逆立つなーと、逆に普段よりも長めに撫でてしまったくらいだ。
リデンは彼の頭をひとしきり撫でると、隣に紫の髪をした頭を見つけた。
「ちゅ、仲裁したんだから……。別に撫でてほしいとかじゃないし……」
どんどん拗らせて言っている気がするが、主神として褒めるべきは褒めなければならない。
だからルーネリアの頭も丁寧に撫でる。
すると何故か行列ができる。
頭撫での神様の行列が。
「なんかあれだな。賢くなりますように頭を撫でてやってください、みたいな……。あ、でも俺、神か。確かにご利益ありそう……」
自分の頭も撫でてみたいが、最高神のみは適応外に違いない。
兎も角、早く掻き混ぜを開始したい。
だが、どうやら行列の一人目レイザームを面白おかしくて撫で回しすぎたらしい。
同じ時間分撫でないと彼らは悲しそうな顔をするので、全員の頭を丁寧に撫でくり回す。
しかもちゃんと同じ時間かどうか全員が見守っている。
早くお前らも海水をかき混ぜろよ!と言いたい気持ちを抑えて、主はとにかく頭を撫で続けた。
時間感覚分からない勢がこんなにも見張っているのだ。
途方もない時間、頭を撫で続けていたのだろう。
だから結局彼らでは一番にはなれない、撫でられた神様も撫でた神様も。
「お父様ぁぁぁ‼‼ 来てください‼‼」
最初に生命を誕生させたのは当たり前だがフォーセリアだった。
フォーセリアはこの謎の頭撫でてほしい列には参加していない。
無論、彼女も頭を撫でて欲しい。
だが、それ以上のことをしてもらったから。
そう、手をにぎにぎしたのは彼女だけ。
その優越感から彼女は一心不乱に海底をかき混ぜていたのだ。
彼女も時間の感覚が分からない。
だから実際にこの星でどれほどの時間で生命が誕生したかは、いずれ生まれてくる人間に託すしかない。
時間という概念も本来は人間が作るのだ。
だから観測者たる彼らが、真実に辿り着けることを願っている。
ひとしきり撫で終わり、お前たちも早くかき混ぜろという言葉を残してリデンはフォーセリアの元に向かう。
そのフォーセリアはいつものように恭しくお辞儀をして、リデンを迎え入れた。
そして彼女は海に一緒に来てという素振りで、主神の手を取ってどこかに連れて行く。
前にも語ったように、神には水とか個体とかそういう概念はない。
やろうと思えばなんでもできる。
だから水に濡れるとか、呼吸がどうとか考えなくて良い。
海底には日の光は入ってこないので、真っ暗だがそれでも神の目ならば関係ない。
さらに言えば大きさも関係ない。
どんなに小さなものでも見分けられる。
素粒子さえも余裕で見えるのだから、分子レベルにもなれば、その細部までもがはっきりと見える。
「どうですか? お父様!」
ドヤ顔をしながらも、水中で髪型を気にしているフォーセリア。
そんな彼女に半眼なんて向けられない。
だって、これは間違いない代物なのだ。
「結局、かき混ぜていたのはフォーセリア一人だったもんな。フォーセリアのお陰で、10の4万乗分の1の壁を。奇跡を乗り越えた。君のお陰で、ついにこの世界に——」
『命』が生まれた瞬間だった。
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